読書

40歳代から50歳代へ

最近はblogから離れていたけれど、久しぶりに書いてみようという気持ちになった。以前のように毎日書くということはないけれど、週に1回ぐらい更新できればよいかな、と思う。 しばらく前、「夏目漱石記念施設整備基金」(http://www.city.shinjuku.lg.jp/ka…

Immanuel Wallerstein「近代世界システムI 農業資本主義と「ヨーロッパ世界経済」の成立」の要約

Immanuel Wallerstein「近代世界システムI」を読み始めた。それなりに、事前の準備の読書はしたつもりだったけれど、Europeの歴史に関する予備知識が不足してうまく理解できないところも多い。今は、ざっくり大筋を押さえて、細部の歴史について理解できるよ…

気持ちのいい音:細野晴臣「分福茶釜」を読む

図書館から借りてきた細野晴臣「分福茶釜」を読んだ。 細野さんの音楽はもちろん大好きだけど、彼の言葉もなかなか味わい深い。まずは、気になった箇所をいくつか引用したい。 これは誇りでもなんでもなくって、むしろ劣等感なんだけど―自己表現がヒネくれて…

多面的な観点から歴史を見直す:加藤陽子「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」

加藤陽子「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」を読み終わった。ここ数年間で読んだもののうち、もっとも目から鱗が落ちた本だった。 最近、日本の歴史に関する本を読みながら、あまりにも日本の為政者の観点に偏っていると思うことが多かった。 例えば、…

自身自力の研究:福沢諭吉と緒方洪庵塾

しばらく前「高橋是清自伝」を読み、これがおもしろかったので(id:yagian:20140602:1401656704, id:yagian:20140603:1401750056)、幕末から明治にかけて生きた人物の自伝の代表格である「福翁自伝」を久しぶりに読み返してみた。 さまざまな視点から読むこと…

原典を読むのがいちばん楽しい:Marco Polo「東方見聞録」を読む

岩波書店から刊行されている月村辰雄・久保田勝一訳のMarco Polo「東方見聞録」を読んだ。 「百聞は一見に如かず」というべきか、やはり原典を読むに如くはない。もちろん、Franchは読めないので、ほんとうの意味での原典は読めないので和訳だけれども。 「…

相場と戦争:高橋是清自伝(2)

前回のentry(id:yagian:20140602:1401656704)に引き続いて「高橋是清自伝」について書こうと思う。 高橋是清の生涯で一般的に有名なできごとは、日露戦争中の外債の募集、金輸出再禁止などのいわゆる「高橋財政」、2.26事件での暗殺だろうか。「高橋是清自伝…

波瀾万丈な時代の明るさ:高橋是清自伝

高橋是清「随想録」を読み、率直でおもしろいことを書く人だなという印象を受けたので、「高橋是清自伝(上)(下)」を読んでみた。 特に波瀾万丈な前半生について語られている上巻がおもしろい。近代日本人の自伝としては「福翁自伝」に匹敵する興味深さだと思…

割り切りの美学:Kindle 4th Generation

最近、洋書はたいていKindle(http://goo.gl/fWQIWK)で読んでいる。 Amazon.co.jpがKindle対応をはじめるという噂がでてから実際に開始されるまでにかなりの時間があったように記憶している。なかなか発売されないことにじれてしまい、Amazon.comからKindle 4…

教養と芸術:細野さんと漱石先生

最近、細野晴臣の音楽にはまっている。 特に、トロピカル三部作と呼ばれるYMO結成前、1970年代中頃に発表されたアルバム「トロピカル・ダンディ」「泰安洋行」「はらいそ」を繰り返し聴いている。 発表当時これらのalbumの売れ行きが悪く、細野さんは「なん…

Inca、Aztecの皇帝と日本の天皇

増田義郎「物語ラテン・アメリカの歴史 未完の大陸」を読んだ。 増田先生は「あとがき」で「ラテン・アメリカは、おそらく音楽を通じてもっともよく日本にその名を知られているだろう。しかし、それ以外の面では、ほとんど未紹介と言っていい。」と書いてい…

透明な好い心地

夏目漱石の随筆「硝子戸の中」に、旧友について書かれた一節のなかに、こんなことが書いてある。 私が高等学校にいた頃、比較的親しく交際った友達の中にOという人がいた。その時分から余り多くの朋友を持たなかった私には、自然Oと往来を繁くするような傾向…

「牛は超然として押していくのです。」

おそらく漱石の書簡のなかでも最も有名なもののひとつだから、改めて私が引用するまでもないのだけれども、書き写してみたいので引用しようと思う。 漱石没年の1916年、当時まさに新進気鋭の作家だった芥川龍之介、久米正雄に送られた書簡である。 拝啓。『…

「余は余一人で行く所まで行って、行き尽いた所で斃れるのである。」

最近、時事的な文章ばかりを書いていて、いささか食傷してしまった。 世間離れをしたくなり「漱石書簡集」を読み返してみた。 心を打たれたところはいろいろあるのだが、今日は、狩野亨吉宛の手紙の一節を紹介したい。 その当時、新設だった京都帝国大学文科…

佐幕派の「維新レジームからの脱却」論

呉智英のデビュー作に「封建主義者かく語りき」という本がある。戦後民主主義を「封建主義」(主として論語)の立場から批判したものである。 もちろん呉智英は半分冗談なのだけれども、半分は本気である。その気持はよく分かる。日本の戦後民主主義は確かに…

"Bandit(匪賊)"としてのAl-Qaeda

Eric Hobsbawm "Bandits" (エリック・ホブズボーム「匪賊の社会史」)を読み返した。 Eric Hobsbawmは、イギリスのマルクス主義歴史学者で、"The Invention of Tradition" (「創られた伝統」ちなにみ、kindleで廉価版が発売されているので、一読することをお…

道徳的な福祉:ObamaCare反対論への誤解

Americaには、根強いObamaCare反対論がある。この反対論は、きわめてAmerica的な現象であるため、反対論の根拠について誤解があるように思う。 日本におけるObamaCare反対論者のstereotypeは、創造説を信奉している頑迷なTea Party Movementの支持者か、Wall…

「善き市民」の哲学:Michael Sandel「公共哲学」

Michael Sandel「公共哲学」を読んだ。 これまでも「リベラリズムと正義の限界」を含め彼の本は何冊か読んでいたのだが、彼の主張が腑に落ちなかった。この本は、Michael Sandelの時事的な論説が集められており、体系的な著作よりもむしろどのような文脈、背…

こいつらは「本読み」の味方ではない

「対アマゾン、電子書籍で連携 書店や楽天など13社、めざせ「ジャパゾン」」(http://goo.gl/b2KkGK)という記事を読み、心の底からあきれ果てた。 書店の店頭に電子書籍の作品カードを並べ、店頭で決済。購入した人は、その作品カードに書いてある番号をも…

「カタカナ語」追放運動

最近の記事では、なるべく外来語のカタカナ表記を使わず、なるべく原語で表記することにしている。慣れないと読みにくいかもしれない。 外国語の単語を日本語に取り入れて表現の幅を広げたいという気持ちはよくわかる。なるべく外来語は使わずに書くべしと主…

真善美:芥川龍之介と菊池寛と私(2)

前回の記事(id:yagian:20131208:1386450690)では、もともとは好きではなかった菊池寛「恩讐の彼方に」を久しぶりに読んだら、不覚にも感動してしまったことを書いた。 青空文庫に、芥川龍之介が菊池寛の作品を、また、菊池寛が芥川龍之介の作品を批評してい…

芥川龍之介と菊池寛と私

最近、ちょっとしたすきま時間に、青空文庫で芥川龍之介の作品をiPhoneで読んでいる。短編小説も随筆も短いので、地下鉄に乗って降りるまでの時間でひとつの作品が読めてしまうのでちょうどいい。 芥川の作品が手放しで好きだ、という訳ではないけれど、彼自…

真の日本人の証明

9月の末から扁桃腺炎の影響があって体調が優れず、blogもご無沙汰してしまった。 扁桃腺炎で発熱しているときは、暇といえば暇である。微熱であれば本を読んでいるが、熱が上がると本を読む元気がなくなる。そんな時はTVをザッピングしていた。と言っても、…

Americaから見た太平洋戦争

最近、大正から昭和初期にかけての政治史に関する本を何冊か読んだ。 日本が対米開戦に至る経緯について新知見があった訳ではないけれど、自分なりに整理ができたような気がする。 重要な点をまとめると次のようになるだろう。 明治憲法は権力を分散させるよ…

東京の育ちの書生、芥川龍之介と私

最近、紙の本をあまり持ち歩かないようになった。 外出先で暇を潰す時、Kindleで本を読むか、iPhoneのアプリで青空文庫を読んでいることが多い。このところ、青空文庫で芥川龍之介の小説や随筆を眺めている。 芥川は、東京生まれ東京育ちで、私の実家の近所…

為末大「走りながら考える」

為末大のTwitterをフォローしていて、彼のつぶやきには共感するところが多かった。本屋で彼の本が平積みになっているのを見かけて手にとった。 いつも気になった言葉があったページの角を折りながら本を読んでいる。この本のずいぶんたくさんのページの角を…

岡野友彦「院政とは何だったか」

岡野友彦「院政とは何だったか」を読んだ。 院政とは何だったかよく理解できずにいたので、題名に惹かれて手にとって見た。歴史学の最先端では異論もあるようだけれども、中世日本の権力構造の中での院政の位置づけについて概括的に把握できたように思う。 …

己惚れと自己弁護と自己宣伝

稲本が自分のブログ「おれと写真」(id:yinamoto:20130223)の冒頭に次のように書いている。 おれ様はこういう人間であるという例によってのおれおれ話である。 ちょうどiPhoneにインストールした豊平文庫(青空文庫リーダーとしては使いやすいと思う(http://go…

捕鯨、漂流、近代世界システム

テレビをザッピングしていたら、NHK-BSで「最強の戦国武将は誰か」というテーマの番組をやっていた。せっかく「戦国時代」というおいしい時代を取り上げるのに、いいかげんこういう切り取り方をするのはやめればいいのに、と思ったのでチャンネルを変えた。 …

作文革命

今回も英語版ウェブログ(http://murl.kz/46YqB)の邦訳です。 日本語のウェブログを15年間、英語のウェブログを2年半書き続けている私にとって、文章術にはとても興味がある。アトランティック・マガジンウエブ版に「作文革命」という興味深い記事が載ってい…