読書

創られた伝統としての「演歌」

エリック・ホブズボウムが「創られた伝統」 で明らかにしたように、古い歴史を持つと思われている「伝統」の多くは近代に創造されたものである。 輪島裕介「創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史」は、ボブズボウムの手法を日本の「伝統…

「ハックルベリー・フィン」の改変について

NY Timesで、「ハックルベリー・フィン」のなかの「くろんぼ(nigger)」という言葉を「奴隷(slave)」に置き換えた新版が出版されるというニュースを読んだ。(http://nyti.ms/eIkby) なかなか複雑な問題だと思う。 改変の背景には、「くろんぼ(nigger)」という…

幕末のロビンソン・クルーソーとしての吉田松陰

岩尾龍太郎「幕末のロビンソン―開国前後の太平洋漂流(ロビンソン・クルーソー・ゲーム)」を読んだ。同じ作者の「江戸時代のロビンソン―七つの漂流」の続編である。(id:yagian: 20101229:1293615566) この本では、海外から外交関係を持つように強制されるよ…

とてつもない物語

小学校の図書室に青い表紙のノンフィクションのシリーズが並んでいる棚があって、その本をむさぼるように読んでいた記憶がある。そのころから、奇想天外なとてつもない物語が好きだった。 大学では文化人類学の勉強をした(落ちこぼれだったけれど)。なぜ、…

映画「ノルウェイの森」を見て

映画「ノルウェイの森」を見てきた。 村上春樹の小説のファンだから、彼の小説の映画化を見逃すわけにはいかない。その一方で、小説のファンゆえに、彼の小説に対して自分なりのイメージや解釈があるから、映画とのずれで失望してしまうのではないかという心…

戦国の作法

箱根旅行の温泉旅館で、藤木久志「戦国の作法」を読み終える。 藤木先生は、戦国時代の村や合戦の実態を、実際に残された古文書を読み込み、復元する作業を続けて、その成果が朝日選書から一連の著作として発表されている。 戦国時代といえば、武将たちの国…

過去の世界の復元としての歴史叙述

大学時代の同級生の稲本と会社の後輩だった入江くんが、私のウェブログで感想を書いた二冊の本について取り上げてくれている。 一冊目は、磯田道史「武士の家計簿」。 id:yagian:20101008:1286487450 id:yinamoto:20101025 http://hirie.sakura.ne.jp/2010/1…

「石と笛」を読んで

ハンス・ベンマン「石と笛」を読み終わった。 このところ忙しく、なかなか読書の時間が取れず、少しずつ読んでいたけれど、図書館から返却催促のメールが入り(以前は、電話で督促されていたが、そちらの方が効き目があるのではないかと思う)、週末を利用し…

陰謀説の心理

私自身は、「陰謀説」はトンデモとして楽しむ対象としては面白いし、どのような心理で「陰謀説」が作られるのかは興味深いけれど、その内容については基本的にはまともに考える価値はないと思っている。 丸山眞男「忠誠と反逆」に、陰謀説に落ち込んでしまう…

「いまここなる」現実の重視

丸山眞男「忠誠と反逆」を読み終わった。昨日の日記(id:yagian:20101107:1289082990)の続きを書こうと思う。 まず、例によって引用しようと思う。丸山眞男は、日本の「古層」にある歴史意識について、次のように書いている。 こうして「いまここなる」現実の…

「正義は力なり」と「力は正義なり」

先週は、会社から帰ってくる時間が遅く、読書の時間があまりとれなかった。昨日の午後は、久しぶりにゆっくりと本が読めた。 今、丸山眞男「忠誠と反逆」を読み進めている。 私ごときが言うのはおこがましいけれど、丸山眞男は頭がいいと感心する。自分が頭…

丸山眞男「忠誠と反逆」

丸山眞男の論文集「忠誠と反逆」を読んでいる。 会社の引越しがあり、先週末に荷物をまとめ、今週から新オフィスに出勤となる。その関係もあって、ここのところ仕事が忙しく、なかなか読書が進まなかった。ようやく、冒頭の表題になっている論文を読み終わっ…

バラード、ギブスン、エフィンジャー、伊藤計劃

伊藤計劃(id:Projectitoh)「虐殺器官」を読み終わった。 今では純文学系の小説も読めるようになったけれど、30歳になるまで、特に、中学生から大学生の頃まではミステリとSFばかり読んでいた。ハヤカワ文庫と創元推理文庫にはずいぶんお世話になった(サンリ…

ジョン・ロールズ「公正としての正義 再説」第五部安定性の問題

以下のエントリーの続編です。 「ジョン・ロールズ「公正としての正義 再説」第一部基礎的諸概念」(id:yagian:20101013:1286916789) 「ジョン・ロールズ「公正としての正義 再説」第二部正義の原理」(id:yagian:20101014:1287003785) 「ジョン・ロールズ「公…

ジョン・ロールズ「公正としての正義 再説」第四部正義に適った基本構造の諸制度

以下のエントリーの続編です。 「ジョン・ロールズ「公正としての正義 再説」第一部基礎的諸概念」(id:yagian:20101013:1286916789) 「ジョン・ロールズ「公正としての正義 再説」第二部正義の原理」(id:yagian:20101014:1287003785) 「ジョン・ロールズ「公…

ジョン・ロールズ「公正としての正義再説」第三部原初状態からの議論

「ジョン・ロールズ「公正としての正義 再説」第一部基礎的諸概念」(id:yagian:20101013:1286916789)、「ジョン・ロールズ「公正としての正義 再説」第二部正義の原理」(id:yagian:20101014:1287003785)の続きです。 ジョン・ロールズ「公正としての正義 再…

「公正としての正義」とポピュリズム

ジョン・ロールズ「公正としての正義再説」を読んでいる。 ロールズは、民主主義国家の基礎となる正義の原理を探求し、次の二つの原理を提唱している。 一つ目は、基本的自由をすべての人に平等に与えること。二つ目は、所得と富の平等な配分を求めるが、社…

ジョン・ロールズ「公正としての正義 再説」第二部正義の原理

「ジョン・ロールズ「公正としての正義 再説」第一部基礎的諸概念」(id:yagian:20101013:1286916789)の続きです。 ジョン・ロールズ「公正としての正義 再説」の読書も第二部に入った。 だんだん難解さが増してくる。特に、格差原理に関する議論は複雑ですん…

ジョン・ロールズ「公正としての正義 再説」第一部基礎的諸観念

ジョン・ロールズ「公正としての正義 再説」を読み始めた。 いつもは、各章ごとTwitterに要約をアップしているけれど、今回は一回分がTwitterには長すぎるようになりそうなので、ウェブログに逐次アップしていこうと思う。 まずは、第一部の要約から。 ジョ…

明治維新と武士のその後

磯田道史「武士の家計簿」を再読した。 この本では、加賀藩の御用算用者、経理を担当する武士である猪山家に残された詳細な家計簿を読み解き、幕末から明治にかけてのある武士の生活状況を復元している。「夜明け前」に続き、幕末、明治維新の時期を普通の人…

前進し続けること

村上春樹「夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです 村上春樹インタビュー集1997-2009」を読み終えた。 私は、あまり現代小説を読まないから、同時代の人として読んでいる小説家はあまりいない。村上春樹と小川洋子ぐらいである。その中で、村上春樹は「世界の…

不確実性は今なお続く

いま、村上春樹「夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです 村上春樹インタビュー集1997-2009」を読んでいる。 いつも、気になったことが書いてあったページの端を折りながら本を読んでいる。この本は折ったページが多すぎて、端が膨らんでしまった。それだけイ…

世の無常

島崎藤村「夜明け前」を読み終わった。 改めて書く必要はないかもしれないけれど、「夜明け前」は幕末から明治のはじめにかけて生きた島崎藤村の父親、島崎正樹をモデルとした歴史小説だ。 話は黒船来航から始まる。木曽街道の宿場町、馬籠の本陣の息子とし…

歴史小説と歴史

島崎藤村「夜明け前」を読んでいる。 ここしばらく、日本が国民国家として成立したプロセスについて知りたいと思い、ナショナリズムを準備した江戸思想史に関する本を読んでいる。思想家レベルでの思想の変遷はそれなりに理解できたけれど、一般の人々の意識…

平田篤胤と柳田國男、魂のゆくえ

子安宣邦「平田篤胤の世界」を読み終わった。 平田篤胤というと、国家主義に結びつく、過激で奇矯な説を唱えた国学者という印象があった。 島崎藤村「夜明け前」に、藤村の父をモデルにした木曽馬籠の本陣の主人、青山半蔵が平田篤胤の養子平田鉄胤の門人に…

レヴィ=ストロースの構造主義と愛について

この週末、つれあいの家族と熊野古道に旅行をした。その旅行の話はいずれウェブログに書こうと思う。今日は、旅行中に読んだ内田樹「寝ながら学べる構造主義」について書きたい。 内田樹のウェブサイト(http://blog.tatsuru.com/)はたまに覗いているけれど、…

本居宣長の過激な達観

子安宣邦「平田篤胤の世界」を読んでいる。 前半は、平田篤胤の世界への導入部として本居宣長がテーマとなっている。 それにしても、本居宣長の思想は徹底している。あまりに徹底しすぎて、身も蓋もないと感じられることもある。 一般的に宗教には、世の中の…

レヴィ=ストロースの「構造」とは何か

これまでも何度か書いているけれど、大学時代の専攻は文化人類学だった。 文化人類学には、レヴィ=ストロースというビッグネームがいて「構造主義」という難解なことを提唱しているらしいということが耳に入ってくる。なんとかその「構造主義」というものを…

レヴィ=ストロースとマルクスの奇妙な関係

クロード・レヴィ=ストロース「野生の思考」を読み終わった。 「野生の思考」のなかで、レヴィ=ストロースとマルクスは、奇妙な関係にあることが印象に残った。 まず、マルクス主義に言及した部分を引用してみたい。 私が基本理念と上部構造に一種の優位を…

小川洋子のブリコラージュ

最近、江戸思想、現代小説、現代思想というローテーションを組んで本を読んでいる。 江戸思想に尊王思想の源泉を探った山本七平「現人神の創作者たち」を読み、次に小川洋子「猫を抱いて象と泳ぐ」を読み、レヴィ=ストロースの「野生の思考」を読み始めてい…