松井秀喜の価値

今シーズンのはじめの頃、ヤンキースについては愚痴ばかりを書いていた。しかし、ここ1月ばかりは、順調である。
先発ピッチャーは、去年に比べれば駒不足だけれども、まずまず踏ん張っている。リリーフピッチャーは、ここ数年ではいちばんできがいい。ジーターのスランプを別とすれば、バッティングもまずは安定している。アレックス・ロドリゲスは、すっかりチームになじんでいる。そして、松井は十分以上の活躍をしている。
最近、マイケル・ルイスマネー・ボール』(ランダムハウス講談社)(amazon:4270000120)を読んだ。オークランド・アスレチックスのGMビリー・ビーンの話である。
アスレチックスは、資金力が乏しいため毎年のように有力選手を放出している。しかし、2000年以降、実に安定した成績をあげている。その背景には、ビリー・ビーンの選手獲得の哲学があるという。
限られた資金を有効に活用するために、徹底して、働きに比べ給料が安い選手を集めている。
ビリー・ビーンとアシスタントのポール・デポデスタによれば、点を取るためには攻撃を継続すること、つまり、アウトにならないことが最も重要という。すなわち、打率ではなく、出塁率がポイントらしい。データを解析してみると、得点と出塁率の相関関係は強いという。そして、走者を本塁に返すためには、長打率が重要な指標となる。しかし、長打率出塁率を比較すれば、出塁率の方が得点と相関が高い。そして、アウトカウントを増やすバントや盗塁、ヒットエンドランは、得点を増やすことに役立っていないという。
失点を防ぐために、投手力と守備力がどの程度の関係を統計的に評価することは難しいようだが、アスレチックスでは、守備力が低いマイナスには目をつぶり、出塁率のプラス面の方を重視している。
走攻守三拍子そろった選手は給料が高いからあきらめている。出塁率長打率、特に、出塁率を重視して、ドラフト、トレードで野手を集めている。そのほかの要素、例えば、守備や足の速さ、そして、野球選手らしい見栄えする体型はあきらめている。つまり、アスレチックスには、動きは少々にぶく、ずんぐりむっくりしており、しかし、選球眼はよく、ボールはじっくり選ぶタイプの野手が集まってきている。
アスレチックス流に、出塁率を中心に打撃成績を眺めると、おもしろいことがわかる。
両リーグを通じて出塁率が最も高いのは、6月1日現在で、バリー・ボンズである。出塁率は、なんと、.621である。二位はアストロズのバークマンで.495であるから、その突出ぶりがわかると思う。41試合で四球が68もあることが大きい。そして、長打率も.851で、これも圧倒的である。この長打力が四球数を増やしている。やはり彼は現在最高のバッターである。
出塁率のランキングでは、松井秀喜は両リーグを通じて10位の.431である。ヤンキースの中では、ホルヘ・ポサーダの7位.440に次いでいる。イチローは53位の.379である。イチロー出塁率は決して悪いわけではないが、松井秀喜は想像以上に価値が高い。出塁率の上位は、長打率も高い傾向にあり、四球を稼ぐには長打力も必要だということがわかる。
注目すべきは、シンシナティ・レッズアダム・ダンである。彼は、打率と出塁率の差が非常に大きい。つまり、ヒットに比べ、四球の数が非常に多いのである。現在、打率は.247だが、松井秀喜と同率の出塁率は.431である。ちなみに、松井秀喜の打率は.320である。アダム・ダンの過去の成績を見てみると、安定して出塁率が高いことがわかる。そのうち、アスレチックスにトレードされるかも知れない。
ちなみに、日本のプロ野球の打撃成績を出塁率順にならべてみた。(http://www.lares.dti.ne.jp/~ttakagi/diary/etc/stats.xls)
ダイエー日本ハム、巨人の主軸が調子がよい。特に、松中とセギノールの成績が突出している。これを見る限り、阿部慎之助は、三番か四番に置くべき成績である。
中村紀洋は打率は低いが、四球がきわめて多い。今年は調子は悪いのだろうけれど、出塁率はそこそこ稼いでいる。高橋由伸清水隆行は意外に四球が少なく、出塁率が伸び悩んでいる。阪神も、打率と出塁率の差が小さい選手が多い傾向にある。