リスク最小化戦略

6/6の日記(id:yagian:20040606)のコメントで、マリナーズはオルルッドとマルチネスを放出した方がよいのではと書いたら、じっさいに、オルルッドは戦力外通告を受けてしまった。年俸を考えると、トレードも難しかったのだろう。マルチネスも、さすがに、今シーズンのオフには引退するだろう。
一方、われらがヤンキースは、まずまず順調で、とりあえず、プレーオフ出場は心配ない。
シェフィールドとアレックス・ロドリゲスは、想像以上にヤンキースの雰囲気になじんでいる。リリーフは、登板過多が気になるけれど、今月のトレード期限までには、新鮮なリリーフピッチャーを補強すると思う。リベラがけがをしなければ、何とかなるだろう。
いちばん問題は、先発ピッチャーである。現在のローテーションで、現在の成績というのは、僥倖以外のなにものでもない。ランディ・ジョンソンやクレメンスを獲得するという話がでているけれど、そのぐらいの補強をしないと、ワールドシリーズ優勝は難しい。
マイケル・ルイスマネー・ボール』(ランダムハウス講談社)(amazon:4270000120)によると、オークランド・アスレチックスのGMビリー・ビーンは、高校卒のピッチャーはドラフトで指名しない方針だという。アメリカの場合、高校時代の成績のデータは不十分で、メジャー・リーグで成功できるか、リスクが大きすぎるためのだという。大学野球については、インターネットでデータが収集できるから、データに基づいた選手指名が可能で、リスクを小さくできる。
このビリー・ビーンの考え方を突き詰めれば、大学野球の実績よりも、マイナーリーグや日本のプロ野球の実績に基づいて選手を採用した方がリスクが小さいことになる。さらに言えば、メジャー・リーグでの実績がある選手を獲得することがいちばんリスクが小さい。
資金力のあるヤンキースは、メジャー・リーグで実績のある選手を集めているが、これは、リスクを最小化する選手獲得法を採用しているということなのだろう。毎年、ワールドシリーズ優勝を目標としているチームとしては、リスクが高い選手採用はできないことは理解できる。
その一方、資金力が乏しいチームは、リスクを冒さなければよい選手を獲得することができない。安く獲得できる高校生ルーキーをドラフトで獲得し、ギャンブルに成功して大化けをすれば、ヤンキースにも勝てる可能性がある。もっとも、リスクの高い選手採用を続けていた場合には、安定した成績を維持することは難しい。去年のワールドチャンピオンのフロリダ・マーリンズは、まさにこの例に当てはまる。
日本では、巨人や阪神は、必要な選手はトレードで獲得するヤンキース的な戦略を進めている。その年のNO1ルーキーを獲得することを目指すダイエーは、アスレチックス的な戦略といえるだろう。また、広島のように、高校生中心のドラフトをして、二軍で鍛えに鍛え、成功した選手は、ベテランになるとフリーエージェントで巨人に移籍させて、補償金を得るという戦略は、資金力の限られたチームとしては合理的である。広島のドミニカ野球アカデミーというのは、なかなかおもしろい試みだったと思う。
もっとも、日本では、高校野球のデータは充実しているし、全国大会もあるから、必ずしも高校生ルーキーのリスクが高いとはいえないかもしれない。また、選手やチームの数も少なく、巨人であっても、他チームから選手を集めてくることに限界がある。西武のように、台湾プロ野球に注目して、日本の野球の裾野の狭さを克服するのも一つの方法だろう。
一リーグ制への移行とあわせて、ドラフト制度、FA制度や放送権料の分配など、日本のプロ野球の改革について、さまざまな提案がある。私は、それぞれチームの資金力に応じてさまざまな戦略を採用でき、それなりに成功できるような制度を設計すべきだと思う。
ドラフト制度を撤廃し、完全自由競争にするのも一つの選択だが、いまの日本の野球界のサイズだと、有力チームが有望な選手の大部分を青田買いしてしまうことが可能で、資金力の乏しいチームが有望な選手を獲得する可能性がきわめて小さくなってしまう。現在の逆指名制度では、実際にそのような状況がおきている。ドラフトは、下位球団から指名できる完全ウェーバー制度を採用すべきではないか。
完全ウェーバー制度を選手側から見れば、資金力の乏しい下位チームに指名され、給料も抑えられてしまう。現在のFA獲得まで10年間では、よほど若い頃から活躍している選手ではない限り、全盛期はドラフトで指名された球団に拘束されてしまう。これは、メジャー・リーグ並に6年程度に短縮すべきだろう。
日本の球団が、他の日本の球団からFAの選手を獲得した場合、補償金を支払うか補償選手をトレードする必要がある。しかし、他国の球団と契約する場合は、この必要がない。これは、FA選手を獲得する際に、日本の球団は不利な条件を負っていることになり、撤廃すべきである。
しかし、資金力が乏しい球団にとって、補償金は、選手育成の代償でもある。補償金制度が撤廃されてしまうと、大きな資金源の一つがたたれてしまう。
FA権を獲得する前に、日本からメジャーリーグへ移籍するための制度として、ポスティングシステムが導入されている。これは、移籍する際の補償金を入札させ、最も高い補償金を提示した球団が交渉権を得るという方法である。この対象を、メジャーリーグから日本の球団に広げれば、下位チームは、選手育成の補償金を得る可能性が増える。また、選手から見ても、FA権を獲得する以前に、より資金力のある球団へ移籍できる。
また、下位球団が、より積極的に選手発掘できるようにするためには、発掘の対象となり得る裾野を広げることが重要である。このために、外国人枠を撤廃したらどうだろうか。少なくとも、プロ経験がない外国人選手については、外国人枠の対象外にすべきである。
前にも書いた広島のドミニカ野球アカデミーを成功させるための障害の一つは、外国人枠にあるだろう。これから、中国など海外に選手を求めるとするなら、外国人枠の撤廃は必須である。