上野ブーム

先週の日曜日、早起きをして、護国寺前から都バスに乗り池之端一丁目で降り、上野動物園に行った。
上野動物園池之端口から入ると、すぐ右側に両生類爬虫類がある。以前は、古びた建物の薄暗い部屋の中に、トカゲやヘビが入った小さな水槽が並んでいた。その妖しい雰囲気が気に入っていて、上野動物園に行くときには必ず寄っていた。今回行ってみると、改築されてすっかり明るくてきれいな建物になっていた。妖しさがなくなった分、落ち着いて見ることができるようになった。改装されたとはいっても、動物園の隅にあり、わざわざ中に入る人が少ないのもいい。
両生類爬虫類館のなかでは、キングコブラがいちばん気に入った。現物は想像よりも大きく、ウロコも美しく、その一枚一枚が厚みがあって、しっかりと身体を守っているように見える。神々しい印象さえあった。爬虫類を飼いたいと思ったことはなかったけれど、キングコブラを見ていると、その気持ちもわかるような気になった。もちろん、実際にキングコブラを飼うことはできないけれど。
せっかく上野動物園まで来たのだから、ジャイアントパンダも見ることにした。パンダ好きのつれあいによると、上野動物園の歴代のパンダのなかでは、トントンがいちばんかわいいという。おみやげ屋の絵はがき売り場でパンダの写真を見ると、たしかにトントンは、目鼻立ちというか、白黒の柄がととのっており、いちばんの美形だった。動きもやんちゃなでかわいらしい。
パンダの檻では、シュアンシュアンが運動中で、ぐるぐると歩き回っていた。檻の前は、人でいっぱいだった。いまさらパンダを見ても、とも思っていたが、いざ実際のパンダを見るとなんだかうれしくなってしまう。まわりの人たちを見ても、みな喜んでいる。つれあいがよく言っていることだけれども、パンダは、ぬいぐるみやキャラクターより、実物の方が圧倒的にかわいらしい、めずらしい動物だと思う。だから、実物を見ると、毎回、感動させられてしまう。
上野動物園の表門から出たところの右側にある新鶯亭という甘味処に入って休憩した。抹茶あん、黒あん、白あんの3種類の団子が一組になった鶯団子をつれあいと分け合って食べた。黒あんの団子がいちばんおいしかった。
上野公園の噴水の脇を抜けて、国立博物館へ行った。ちょうど、中国国宝展という展覧会をやっていた。レシーバーを借り、解説を聞きながら、展示物に見入っている人がたくさんいた。その熱心さにちょっと驚いた。
北魏時代の石に刻まれたレリーフの仏像に、法隆寺釈迦三尊像によく似ているものがあった。法隆寺釈迦三尊像は、立像だけれども、厚みが薄く平面的なデザインである。なぜ、平べったいのか不思議に思っていた。石に刻まれた仏像は、模式的にデザインされた裾模様だけではなく、レリーフであるがゆえの平面的な印象もよく似ている。想像だけれども、釈迦三造像を造った仏師は、北魏時代のレリーフの仏像を参考にしてこの仏像を作ったのかもしれない。
北魏時代の仏像の隣の部屋に並んでいた北斉時代の仏像は、衣の模様がおもいきり省略され、抽象化されていた。美術品、彫刻として見れば美しく、私は、この中国国宝展で展示されたもののなかで、北斉時代の仏像がいちばん気に入った。しかし、シンプルで美しすぎて、信仰の対象としては物足りないような感じもする。私は、あまり仏教の密教的な側面が好きではなく、顕教的な側面の方が好きだけれども、密教の仏像や仏画曼荼羅の、悪く言えばごちゃごちゃしたようなデザインの方が、信仰心に強く訴えてくるところがあるように感じる。北斉の仏像は、あまりにもあっさりとしており、味が薄すぎる。中国の歴史には詳しくないから、あてずっぽうの想像だけれども、北斉時代の仏教は、信仰の強さという意味では衰えていた時代なのではないかと思う。
国立博物館を出た後、上野藪に行き、天ぷらそばを食べた。そばは香りが高くておいしかった。藪そば系列では、つゆが塩辛い。好みだけれども、私にはちょっと塩味が勝ちすぎて、だしの味が消されているように感じられる。
昨日は、夕方に家を出て、やはり、護国寺前から都バスに乗り、上野松坂屋前で降りた。湯島の方に歩いていき、天神下にあるシンスケという居酒屋に行った。6時前には店に着いていたのだけれども、もう、初老の男性客でいっぱいになっていた。樽酒は、ほのかに木の香りがしておいしかった。肴も、ふつうにおいしかった。こんな店が近所にあれば常連になるだろうと思った。
わが家から上野は、バス一本で行けるところがいい。リニューアルした国立科学博物館旧岩崎邸庭園にも行ってみたい。ほかにも、一杯やってみたい店もある。しばらくは、上野に通うことになるかもしれない。