まずい

小学校の給食では、大きさが違う三つのへこみがあったアルミニウムの皿を使っていた。いちばん大きいへこみにおかずを、二番目のへこみにパンを、いちばん小さいへこみに季節の果物を乗せた。給食では、果物を食べるのがいちばんの楽しみだった。
しかし、6月頃になると、果物の場所に1/4に切った固いトマトが置かれるようになる。これがまずかった。
トマトケチャップは好きだったし、スパゲッティ・ミートソースは好物だった。つまり、加熱調理したトマトは嫌いではなかった。しかし、生のトマトの青臭い香りは好きになれなかった。
この季節は、本来だったら給食でいちばん楽しみのはずの果物の代わりに、食べるのがいちばんつらいものがでてくるのである。しかし、トマトを食べ終わらなければ、昼休みのドッジボールに参加できない。パンとおかずを食べた後、トマトに食塩をかけ、目をつぶって、二口、三口で一気に食べていた。
先週、打ち合わせで川崎駅に行く機会があった。西口にある「つばめグリル」というお店で昼食を食べた。ランチセットを頼むと、まず、トマトのサラダがでてくる。皿の上には湯むきをしたトマトが丸ごと一つあり、そのうえにサウザンアイランド風のドレッシングがかかっているだけのシンプルなものだった。生のトマトには小学校の頃の苦い思い出があるから、食べるのを躊躇してしまう。ナイフで端を方を切って食べると、青臭さがなくておいしい。同じトマトとは思えない。
私が小学生だった頃と比べると、トマトの品種改良も進んでいるのだろう。小学校の給食のため、大量に仕入れ、手早く四つ切りをするためには、完全に熟すまえの固いトマトの方が使いやすかったのだろう。もちろん、皮を湯むきするなどという手間がかけられるはずもない。いまになれば給食の事情もわかるけれど、やっぱりあの生のトマトはまずかった。