学力低下

実家に帰ったら、両親から、あなたは藤原正彦の「国家の品格」(新潮新書 ISBN:4106101416)のあら探しをいろいろしているけれど、細かいところではなく大筋を読んだらどうだ、あの本は言いたかったことを書いていたので読んだら気持ちがすっきした、私たちの同世代の人はみんな同じように思ってる、と言われた。
残念ながら、どの部分を読んで彼らがすっきりした気分になったのかまで聞きだすことができなかった。しかし、私の率直な感想でいえば、あの本の大筋を取り出せば、功利主義だけではなく倫理が必要という至って常識的なことでべつだん感心するほどのものではないし、枝葉に誤りが多すぎて、それが読んでいて気にならないというのもどうしたものだろうかと思う。
近年、ゆとり教育の影響での学力低下が問題視されているが、それをいうなら、戦中や戦後直後の教育制度が破綻していた時代に教育を受けた世代の方の学力低下の方がよほど深刻だろう。まさに、父親は戦中に、母親は戦争直後に初等教育を受けた世代である。両親の世代が「国家の品格」に感心するというのは、初等教育の荒廃による学力低下の深刻な影響ではないだろうか。
というのは、半ば冗談であるけれど、きちんと調査すれば、あんがいこの世代の学力の低さが明らかになるかもしれないという気もしなくもない。
私が会社に入った頃、戦争直後に初等教育を受けた世代が会社経営をしており、現在では、いわゆる団塊の世代とその下の世代に代わっている。個人的な印象ではあるけれど、現在の経営陣の方が論理的な思考に長けており、より普遍的に通用しうる倫理観を持っているような印象がある。彼らは、バブルの時代にきわめて無責任な経営をしていた上の世代の尻ぬぐいをして、より合理的な経営を実現したように思う。
もっとも、団塊の世代のなかにも、学園闘争でまともな大学教育を受けていない人もいるから、その意味で学力が低下しているかもしれない。
現在のゆとり教育による学力低下を議論する際に、これらの世代の学力とぜひ比較してもらいたいと思う。