お好み焼きのお作法

先週の金曜日、会社の帰りにつれあいと待ち合わせて、お好み焼きを食べに行った。
私の両親は関東の出身で、お好み焼きを食べる習慣がなかった。家の食卓にお好み焼きが出てくることはなく、もちろん、外食でお好み焼きを食べることもなかった。自分で食事を作ったり、外食をしたりするようになってからも、自ら進んでお好み焼きを食べることはなく、また、誰かにお好み焼きを誘われることもほとんどなかったから、三十代終わりになった現在でも、一生のうちでお好み焼きを食べた回数は数えられる程度である。
今回行ったお好み焼き屋に行くのはこれで二回目である。最初にこの店に行ったのは一月ぐらい前だったけれど、そのとき、広島焼がやけにおいしく感じた。つれあいと夕食を食べに行くことなり、この店にまた行きたいと思った。これまで自分から積極的にお好み焼きを食べたいと思ったことはなく、われながら驚いた。もしかしたら、自分はお好み焼きが好きなのかもしれない、ということに気がついた。
その店は、ごくふつうのチェーン店だ。お好み焼きをあまり食べたことがないから、お好み焼きにうまい、まずいの差があるのかどうかもよくわからないのだけれども、そのチェーン店の味は自分の味覚に合っている。
つれあいは、私とつきあう前はそば屋に入ったことがあまりなかったので、私とそば屋に行く時、お品書きを見てもどんなものが出てくるのかわからないという。たしかに、昔風のそば屋では、もり、ざる、かけ、あられ、などとそっけなく書かれた板が鴨居に並んでいるだけである。私は、父親がそば好きだったこともあり、そば屋にはなじんでいたけれど、たしかに、知らなければ何がでてくるのかさっぱりわからないだろう。
私にとってお好み焼き屋のメニューは難解である。メニューには、いろいろな種類のお好み焼きが並んでおり、何を頼めばよいのかよくわからない。モダン焼ってなんだ。しかし、お好み焼き屋の店員は、あたり前という顔をして歩いているから、怖くて聞くことができない。結局、やっとのことでねぎ焼と広島焼を注文する。
お好み焼きは、初心者から見ると、変食の一種に見える。特に、広島焼は。小麦粉を溶いて焼いたクレープのなかに、小麦粉で作った焼きそばが入っている。こども向けのような甘い味付けのソースに、マヨネーズをかける。いまどきの変食の条件に合致すると思う。しかし、その変食風のものを堂々と食べることができるところが気に入っている。
焼き上がったねぎ焼と広島焼が運ばれてくる。どう焼いていいのかわからないから、調理してくれるお店でなければ困る。もちろん、自宅でお好み焼きを作ることはない。でてきたお好み焼きをどう食べるべきか、お作法がよくわからない。あの、金属製のへらのようなもの(何という名前なのだろうか)を使って、ピザのように八等分に切る。しかし、お好み焼きは、直径に切るものなのだろうか。それすらもよくわからない。
つぎは、ぼてぢゅうを卒業して、おいしいという評判の店に挑戦してみようかと思う。