この絵が買いたい

昨日の日記(id:yagian:20060501:1146444768)の続き。
静嘉堂文庫美術館(http://www.seikado.or.jp/menu.htm)で「国宝関屋・澪標図屏風と琳派の美」展に行ったのは、酒井抱一の「絵手鑑」(http://www.seikado.or.jp/sub0300.htm)を見たかったからだ。「絵手鑑」について、「酒井抱一」(新潮日本美術文庫 ISBN:4106015382)の解説を引用する。

一帖の画帖のなかに表裏それぞれ三六図ずつ、あわせて七二図を貼り込んだ冊子で、さまざまな画題の絵が集められている。……画風で分類すると、一世代前の京都の画家、伊藤若冲から学んだもの、友人の谷文晁から影響をうけたもの、伝世の宋元画を学んだもの、大和絵風、円山四条派風、俳趣味のもの、そして宗達・光琳風などがあり、抱一が学んできた雑食的ともいえるマニエラのかずかずを披瀝している。

特に、若冲の「玄圃瑤華」を模写した絵(http://park5.wakwak.com/~birdy/jakuchu/variety/mosha.html)の実物が見たかった。
「玄圃瑤華」は、拓版画とよばれる技法で作られた、地が黒で図が白く抜かれたモノクロの版画の画帖である。私がはじめて見た若冲の絵が、この「玄圃瑤華」のシリーズで、これを見たのがきっかけとなって江戸時代の絵に興味を持つようになった(id:yagian:20051225:1135520988)。
伊藤若冲は、カラフルな色づかいの不思議な雰囲気の絵が多く、「奇想」という形容をされることがある。しかし、「玄圃瑤華」は、クールで、まるで作りたてのような新鮮なデザインの版画で、「奇想」といった雰囲気ではない。若冲の絵は、ほかにもいろいろ見たけれど、結局、最初に心ひかれた「玄圃瑤華」がいちばん好きだ。機会があれば、「玄圃瑤華」のうちの一枚でもいいから買えないものかと思っている。本物は買えないけれど、「若冲の拓版画」(瑠璃書房)という「玄圃瑤華」を含めたきれいな画集が出版されており、運よく古書店で手に入れることができた。
酒井抱一は、現代的なところがある不思議な画家である。抱一は、現代では江戸琳派という分類にされることが多いけれど、尾形光琳に限らず、さまざまな画家、流派の絵を参考にして、多様な絵を描いている。それは、いろいろなタイプの絵が好きで描いているということではなく、実作を通して絵画史を研究しているような趣がある。その「研究的態度」が妙に現代的である。例えば、抱一は、光琳百年忌にあわせて、光琳の作品をあつめた遺墨展を開催してしまう。そして、「光琳百図」というカタログ(http://www.dap.ndl.go.jp/home/modules/dasearch/dirsearch.php?id=oai%3Adp01.dap.ndl.go.jp%3A123456789%2F30804&cc=07_02_00&keyword=&and_or=AND)を作って出版してしまう。まるで、光琳研究をしているキュレーターのようだ。単に、光琳の絵が好きで、参考にして絵を描いているだけではない。「絵手鑑」には、さまざまな画家、流派の模写があつめられており、抱一の絵画史研究の集大成のようである。
ぜひ、「玄圃瑤華」にあわせて「絵手鑑」も手元に置いて眺めたいと思う。といっても、本物は静嘉堂文庫美術館にあり、手が出るはずもない。複製か画集を誰か出版してもらえないだろうか。