安倍内閣のこれまでとこれから

昨年9月に総理大臣になってから、安倍内閣の話題といえば、支持率の低下と発言のあいまいさである。
昨日、フジテレビの番組で、中曽根元首相が、安倍晋三の「美しい国」というキャッチフレーズがわかりにくいと注文をつけていた。小泉内閣のときは「自民党をぶっこわす」、中曽根内閣のときは「戦後政治の総決算」と、キャッチフレーズはわかりやすかったと言っていた。
しかし、「美しい国へ」(文芸新書 ISBN:4166605240) を読めば、安倍晋三の最終的にしたいことはよくわかる。彼が目指しているのは、日本を自立した国家にすることであり、そのためには、憲法改正、安保条約改定、もしかしたら、核武装、アジアの新秩序確立が必要と考えている。もちろん、教育基本法の改正も、アメリカからの自立の一環として必要だと考えているのだろう。それにはわかりにくさはない。
わかりにくいのは、それをどのようにして達成しようとしているのか、その道筋である。中曽根元首相が出演していたフジテレビの番組で、竹中平蔵が、安倍内閣はアジェンダセッティングが下手だといっていた。つまり、さまざまな政策課題の優先順位付けができていないという。よくもわるくも小泉内閣アジェンダセッティングが巧みで、内閣が問題としたいことにうまく注目を集めていた。安倍内閣では、遠大な最終目標ははっきりしているけれども、それでは、今は何から手をつけようとしているのかがよくわからない。
問題は、意図的にアジェンダセッティングをあいまいにしているのか、それとも、実際にアジェンダセッティングをコントロールできないのか、どちらかなのか、ということである。2005年9月の衆議院選挙に大勝している。今年7月の参議院選挙さえ乗り切れば、2009年9月の衆議院の任期までは、フリーハンドを得ることができる。安倍内閣は、あえて、アジェンダセッティングを明確にすることを避け、とにかく失点を防ぎ、参議院選挙後に本格的に政策を実行に移そうとしているのか、それとも、単に内閣が機能していないということなのだろうか。
最近、安倍首相は、憲法改正参議院選挙の争点にしたいと言い出している。彼は、本気で憲法改正を目指し、それを最優先するという姿勢を明らかにしてくるかもしれない。おそらく、自民党だけでは、衆議院参議院の三分の二以上の議席を占めることは難しいから、憲法改正を実現するためには、民主党憲法改正賛成派と協力する必要があるだろう。しかし、自民党のなかにも、憲法改正賛成派と反対派がいる。まずは、自民党憲法改正賛成派で純化することが必要だ。そのためには、郵政民営化という踏み絵を踏ませたこのまえの衆議院選挙のように、総選挙ごとに憲法改正を論点として、それを踏み絵とすることを考えているのではないか。安倍首相の任期を最長6年だと考えれば、その期間に参議院選挙が2回、衆議院選挙が1回あるから、いちおう、すべての国会議員に踏み絵を踏ませることができる。
こうしてみると、安倍内閣は、憲法改正という難しい問題を争点に据えて、3回の選挙を乗り切る必要がある。これは、かなりハードルが高い。自立した国家として、安保条約を改定するという目的のためには、集団的自衛権が認められれば可能である。現行憲法のまま、解釈によって対応するという方向に転換することもありえるだろう。
これまでの安倍首相を見ていると、正攻法を好むように見える。そのことは、憲法改正参議院選挙の争点にしたいと言っていることにも表れている。とにかく、次の参議院選挙を乗り切って、そのあとやりたいことに取り組むという戦略であれば、2009年までは安倍内閣が続くだろう。しかし、参議院選挙に憲法改正を本格的に取り組むとなると、波乱含みかもしれない。