幸せの青い鳥

読みやすい文体の小説を読みたいと思い、本棚に並んでいる村上春樹の小説から「ダンス・ダンス・ダンス(上・下)」(講談社文庫 asin:4062749041)を手に取った。
前半にはいくつか気になったところがあったけれど、ハワイでキキを追いかけるあたりから結末は一気に読ませる。
さて、いつものように印象的だった一節を引用しよう。

我々はどちらも三十四歳で、それは十三歳とまた違った意味でとても難しい年齢だった。二人とも年をとるということの本当の意味を少しずつ認識しはじめていた。そして我々はそれに対しなにがしかのものを準備しはじめなくてはならない時期にさしかかっていた。来るべき冬のあいだに体を温めてくれそうなものを確保しておくのだ。彼はそれを簡潔な言葉で表現した。
「愛」と彼は言った。「僕に必要なものはそれなんだ」
「感動的だ」と僕は言った。でも僕にだってやはりそれは必要だったのだ。

若い頃だったら、こんな一節が気になることはなかったと思う。ある意味、なんでも自分でできるというような全能感があって、本当の意味で誰かに何かを求めることもなく、誰かに何かを与えることもなかった。だけれども、今になってみると、「愛」がなくてはやっていけないことがわかる。
真剣に誰かに何かを求めたことがない主人公が、そういう人生に喪失感を抱き、自分の足元で愛を求めることに気がついた。というふうに「ダンス・ダンス・ダンス」を要約すると、まるで、メーテルリンクの「青い鳥」(新潮社 asin:4102013016)みたいだ。