地球温暖化問題を学習してみる(その3)

先週から書き始めた地球温暖化問題に関するエントリー(id:yagian:20080731)の続きである。
IPCCの「SPM」*1の「第二章 変化の原因」に進もう。
冒頭には次のように書かれている。

産業革命以降、人間活動よる世界の温室効果ガスの排出量は増加し続けており、1970年から2004年の間に70%増加した。
……
世界のCO2、メタン(CH4)および亜酸化窒素(N2O)の大気中濃度は、1750年以降の人間活動の結果、大きく増加してきており、氷床コアから決定された、産業革命以前の何千年にもわたる期間の値をはるかに超えている。

この部分についてはあまり問題ない。もっとも、地球誕生以来という意味では、現代よりCO2濃度が高かった時代はあるようだ。
問題は次の節である。

20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性がかなり高い。過去50年にわたって、南極大陸を除く各大陸において大陸平均すると、人為起源の顕著な温暖化が起こった可能性が高い。

慎重な言い回しであるが、事実上、現在進行している温暖化の原因を人為起源の温室効果ガスの増加に断定している。「SPM」の最も重要な成果と言ってよい。その根拠については、次の文章に示されている。

観測された温暖化の分布とその時間的な変化は、人為的な強制力を取り入れたモデルによってのみシュミレートされる。

つまり、温暖化のシミュレーションをやると、人為起源の温室効果ガスの増加を変数として取り入れないモデルでは、温暖化の進行や地域分布が適切に説明できない。だから、現在進行している温暖化は人為起源である、という論理である。
赤祖父俊一は、シミュレーションによる証明については懐疑的である。「正しく知る地球温暖化」のなかで次のように述べている。

気候学者には物理学的な考察をするグループ(コンピュータ専門の研究者を含めて)と自然科学的に考察するグループがあり(もちろん、この区別には例外もあるが)、疑問を持っているのは後者である。……前者は温暖化問題については「基本的な物理過定は理解しているので、あとはコンピュータで処理すればよい」としている。IPCCは前者に属する。後者は「自然現象についての人間の理解はまだ極めて不十分である」としているが、問題がここまで混乱すると反論は容易ではないので、沈黙を守っている者が多い。(p29)

赤祖父俊一は当然後者に属する。そして、現在進行している温暖化は、人為起源の温室効果ガスの排出が急速に増大する以前の1800年代から始まり、直線的な傾向で温度が上昇しているから、「温暖化の大部分(約六分の五)は地球の自然変動であり、人類活動により放出された炭酸ガス温室効果によるのはわずか六分の一程度である可能性が高いということである(p12)」と主張している。
私は専門の科学者ではないので、どちらが比較的もっともらしいのはかはよくわからない。私自身は、社会科学系のモデルを扱ったことはあるが、自然科学系のモデルは扱ったことはない。その限られた経験から考えると、シミュレーションによる証明というのは信頼性に乏しいという感触は持っている。
「SPM」だけではモデルの詳しい内容まではよくわからないが、仮に、使われたモデルが、人為起源ではない過去の気候変動もシミュレートでき、そして、現在進行中の温暖化について人為起源の温室効果ガスの増加が重要な変数である、ということであれば信頼性は高まる。一方、モデルが、過去の気候変動のシミュレーションを行わず、現在の温暖化のみのシミュレートをしているのだとすれば、信頼性は低くなるだろう。
赤祖父俊一が指摘するように、現在進行している温暖化の原因に、自然変動の要素がある可能性はあると思う。しかし、赤祖父俊一自身の証明方法は素朴すぎるように見える。
信頼性については一定の限界はあるものの、現在進行している温暖化の原因の一つとして、人為起源の温室効果ガスの増加は否定できないが、自然変動についても留意すべき、というところが、現段階の研究における公平な結論といえるのではないかと思う。

ラジェンドラ・パチャウリ―地球温暖化 IPCCからの警告 (NHK未来への提言)

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正しく知る地球温暖化―誤った地球温暖化論に惑わされないために

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*1:IPCC「第四次評価報告書統合報告書 政策決定者向け要約」http://www.env.go.jp/earth/ipcc/4th_rep.html