地球温暖化問題を学習してみる(その4)

地球温暖化問題に関するエントリー(id:yagian:20080804)の続きを書こうと思う。
IPCCの「SPM」*1を読みながら、誰にでも理解できる地球温暖化問題の入門が書ければよいと思っているのだけれども、思惑通りに書けているだろうか。それとも、専門的になりすぎているだろうか。ともかく、「SPM」の「第三章 予測される気候変化とその影響」に進もう。
ここでは、現在進行中の温暖化に対して対策を取らなかった場合の今後の温暖化の見込みが示されている。気温の変化と海面水位上昇について、六つのシナリオで予測されており、最も変化が小さいシナリオ(B1)では、今後100年間での気温上昇が1.8℃、海面水位上昇が0.18〜0.38m、最も変化が大きいシナリオ(A1FIシナリオ)では、気温上昇が4.0℃、海面水位上昇が0.26〜0.59mと予測されている。
地球温暖化を学習してみる(その2)(id:yagian:20080731)」に示したように、現在の地球温暖化は「過去100年間(1906〜2005)の線形の昇温傾向は100年あたり0.74℃」であり、「世界平均海面水位は……1961年以降、年平均1.8mmの速度で上昇」しており、気温では3倍から6倍、海面上昇では1倍から3倍のスピードで進むと予測されている。
個人的感想ではあるが、想像よりマイルドな予測だと思う。過去の温暖化の実績である「100年あたり0.74℃の上昇」では、人間社会に目立った影響を及ぼさなかった。どの程度の気温上昇になれば明らかな影響が生じるのかはわからないけれど、数倍程度の加速であれば、破滅的な影響までは生じないのではないだろうか。また、海面水位上昇については、一部の島嶼を除けば、おそらく、適応可能な範囲だろう。
「SPM」では、「特に気候変化の影響を受けやすい」生態系、地域として、以下のように指摘している。

システム及び部門
・特定の生態系
 ・陸域:ツンドラ、北方林、山岳地域、昇温に対する感受性が高いため;地中海型生態系。降水量の変化により;熱帯雨林地域、降水量の減少により。
 ・沿岸:マングローブ、塩性湿地。複合的ストレスにより。
 ・海洋:サンゴ礁。複合的ストレスにより;海氷生物群系。昇温に対する感受性が高いため。
・中緯度の乾燥地域及び乾燥熱帯域における水資源。降水量及び蒸発散量の変化により。雪氷融解に依存する地域。
・低緯度地域の農業。水の利用可能性の低下により。
・沿岸低平地。海面水位の上昇及び極端な気象現象のリスクの増加により。
・適応能力の低い人口集団の公衆衛生。

地域:
・北極地域。予想されれる昇温の速度が自然システム及び人間社会に与える影響のため。
・アフリカ。適応能力の低さと予測される気候変化の影響のため。
・小島嶼国。予測される気候変化に対する住民及びインフラの高い曝露のため。
・アジア及びアフリカのメガデルタ地域。人口の多さ、海面水位上昇・高潮・河川洪水への高い曝露のため。

はなはだ自己中心的な感想であるが、幸いなことに日本は「特に気候変化の影響を受けやすい」生態系、地域からは外れているようだ。
以前、温暖化による日本の農業への影響を調べるために、農業と災害、病虫害に関する論文を収集したことがあった。その結果、大部分の研究は、冷害とそれにかかわる病虫害を扱っており、高温による被害に関する研究は、ごく最近温暖化が話題になってから着手されたものだということがわかった。
日本の農業は、長年にわたって熱帯原産の稲という作物の栽培限界を広げることに努力をしてきたから、寒いということが問題になったとしても、暑いということが問題になったことはなかった。実際に、凶作年はすなわち冷害があった年であり、猛暑によって凶作、不作になることはない。しかも、徐々に気温が上昇するのであれば、作付時期や品種を変えることで適応することは十分可能である。温暖化が進んだ場合、北海道でコシヒカリが採れるようになって、ライバルの産地が困るかもしれないが、日本農業の全体を見れば、プラスはあれ、マイナスになることはほとんどないといってよいのではないか。
所得が少なく水資源開発のインフラが整備されていないアフリカの乾燥地帯では水不足が深刻になる可能性が高く、また、南アジアのメガデルタ地帯では災害の危険性が高まる可能性があり大きな問題になると思われる。しかし、日本に限って言えば、地球温暖化によって、破滅的、とまでいえる影響は発生しないのではないだろうか。

ラジェンドラ・パチャウリ―地球温暖化 IPCCからの警告 (NHK未来への提言)

ラジェンドラ・パチャウリ―地球温暖化 IPCCからの警告 (NHK未来への提言)

正しく知る地球温暖化―誤った地球温暖化論に惑わされないために

正しく知る地球温暖化―誤った地球温暖化論に惑わされないために

*1:IPCC「第四次評価報告書統合報告書 政策決定者向け要約」http://www.env.go.jp/earth/ipcc/4th_rep.html