地球温暖化問題を学習してみる(まとめ)

ながながと書き続けてきた地球温暖化問題に関するエントリー(id:yagian:20080730 〜 id:yagian:20080806)のまとめを書こうと思う。自分自身としてはこれを書くことでずいぶん勉強になったけれど、わかりやすい地球温暖化入門を書こうという目的は達成できなかったかもしれない。せめて、まとめはわかりやすく書きたいと思う。
まず、ここまで書いてきたエントリーの要旨を箇条書きで整理してみる。

  • 地球温暖化問題に関して現状でもっとも権威がある研究成果は、2007年に公表されたIPCC「第四次評価報告書」であり、そのポイントは「政策定者向け要約」(以下、"SPM"と略す)*1としてまとめられている。なお、以下の記述は、SPMに基づいている。
  • 1800年ごろから地球温暖化は始まっており、過去100年間で気温は0.74℃上昇し、1961年以降海面は年平均1.8mm上昇している。
  • 産業革命以降、人間の活動よる世界の温室効果ガスの排出量は増加し続けており、1970年から2004年の間に70%増加した。
  • 20世紀半ば以降の温暖化の大部分は、人間が排出した温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性がかなり高い。人為起源の温室効果ガスの増加を変数として取り入れないモデルでは、温暖化の進行や地域分布が適切にシミュレーションできないからである。
  • 対策を取らなかった場合、今後100年間での気温上昇は1.8℃〜4.0℃、海面水位上昇が0.18〜0.59mと予測されている。北極地域、アフリカ、小島嶼国、アジア及びアフリカのメガデルタ地域などで大きな影響が生じると考えられている。
  • 温暖化に適応する方策と、温室効果ガスの排出を減らして温暖化を緩和する方策のどちらも、その一方だけでは全ての気候変化の影響を防ぐことができない。両者はお互いに補完しあい、気候変化のリスクを大きく低減することができる。そのうち、多くの影響は、緩和策によって減少、遅延、回避することができる。

ここからは、IPCCへの懐疑論などに関する私のコメントである。

  • IPCCに懐疑的な一部の科学者は、気候変動のメカニズムが十分に明らかにされていない段階でのシミュレーションは信頼できないと考えている。
  • EUは、産業革命以降の世界の平均気温上昇を2.0℃を許容上限とし、2050年までに温室効果ガスを半減することすることを主張している。これは、IPCCのシミュレーションに基づいている。
  • ビョルン・ロンボルグはEUの目標について、気温上昇による被害防止に対する温室効果ガス排出防止の費用が大きすぎること理由に批判している。
  • ロンボルグが用いた費用便益分析の基礎となった温暖化による被害額の推計について、SPMではその信頼性に懐疑的である。

ここから、地球温暖化問題について私自身の見解を書こうと思う。
一部の懐疑論者は、地球の気候変動のメカニズムが明らかにされていない段階でのシミュレーションは信頼できないと批判する。この批判には一理あると思う。気候変動のメカニズムが解明されなければ、人為起源の温室効果ガスがどれだけ影響を与えているか正確には計測できないはずである。しかし、不完全とはいえ、現在行われているシミュレーションの研究が無意味だとは思えない。また、二酸化炭素温室効果を持っており、これが急速に増加していることが事実であることを考えると、暫定的にIPCCの結果を認めるのが妥当ではないかと思う。
一方、ビョルン・ロンボルグの批判には、私自身共感するところが多い。ロンボルグは、他の懐疑論者と異なり、IPCCなどによるシミュレーション結果はすべて肯定した上で議論を組み立てている。適応策、緩和策の費用便益分析を行った上で、適応策の効率性の高さを示している。
SPMでは、ロンボルグが費用便益分析を行った基礎となった温暖化による被害額を想定したシミュレーションは信頼性に乏しいとしている。確かに、気候変動のシミュレーションの信頼性に疑問がある上に、それに基づいた被害額の推計は信頼性に問題があるだろう。しかし、被害額の信頼性が高い推計ができないのであれば、その段階で大きな費用がかかる緩和策を実施するのは時期尚早といえないだろうか。
ロンボルグの費用便益分析が正しければ、適応策を優先した方が効率的である。また、ロンボルグの費用便益分析の基礎となる被害額の見積もりが信頼性が欠けるものであれば、大規模な緩和策は時期尚早ということになると思う。いずれにせよ、EUが中心となって国際的な合意が目指されている2050年までに温室効果ガスの排出を半減させるという野心的な目標には、問題があると考えている。
やや正確性を欠く情緒的な言い方をするならば、世界中で高額の炭素税をかけてガソリンの使用量を半減させるよりは、ODAでツバルやモルジブバングラディシュなど温暖化によって被害を受ける地域の防災工事を進めた方が、世界で幸せになる人は多いだろうと思うのである。

ラジェンドラ・パチャウリ―地球温暖化 IPCCからの警告 (NHK未来への提言)

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正しく知る地球温暖化―誤った地球温暖化論に惑わされないために

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