ゲリラ豪雨の起源

このところ残暑は続いているけれど天気は秋めいてきて、ゲリラ豪雨のニュースを聞くことも少なくなった。
今年の夏は、気圧配置のせいなのか、ヒートアイランド現象や地球温暖化のせいなのか、ゲリラ豪雨と名付けられた集中豪雨がよくあった。そのための被害もでて、一時期はニュースでもよく特集されていた。私も急な豪雨に降り込められてコンビニエンスストアで雨宿りしたこともあったし、家のなかで雷が鳴っているのを、パソコンが故障しないか不安で落ち着かない気分で聴いていたこともあった。
確かに今年は、豪雨の数も多く、その激しさも大きかったような気がするし、ここ数年、豪雨が増えているような印象もある。やはり、ヒートアイランド現象の影響もあるのだろうか、という気になっていた時に、「半七捕物帳」のなかの、「雷獣と蛇」という作品で、半七老人が次のように語っているのに突き当たった。

 しかし昔にくらべると、近来は雷がならなくなりましたね。……昔はよく雷が鳴ったもんですよ。どうかすると、毎日のように夕だちが降って、そのたんびにきつとごろごろぴかりと来るんですから、雷の嫌いな人間にはまったく往生でした。それに、この頃は昔のような夕立が滅多に降りません。……今まで焼けつくように日がかんかん照っているかと思うと、忽ちに何処からか黒い雲が湧き出して来て、あれという間も無しにざつと降ってくる。しかもそれが瓶をぶちまけるように降り出してすぐに、ごろごろぴかりと来るんだからたまりません。(p80-81)

半七老人の語る昔の夕立は、まさにゲリラ豪雨の特徴を捉えている。岡本綺堂が何を根拠に半七老人にこのように語らせているのかわからないけれど、もし本当だとすれば、江戸の末頃にはゲリラ豪雨といってよいような夕立がよくあり、明治、大正の頃にはそれが収まっていたということになる。それが正しければ、昨今のゲリラ豪雨の原因がヒートアイランド現象だとする説もあやしくなってくる。
気象の傾向というものは、長い期間を通じてみなければ、なかなか確かなことは言われないのだろう。

半七捕物帳〈2〉半鐘の怪 (春陽文庫)

半七捕物帳〈2〉半鐘の怪 (春陽文庫)