日本と西洋の調和

三連休に行ってきた関西旅行のつづきについて書こうと思う。
大阪駅のガード下でお好み焼きを食べ、ホテルにいったんチェックインしたあと、リーガロイヤルホテル大阪にあるリーチバーに飲みに行った。
リーチバー
リーチバーは、柳宗悦民藝運動に参加したイギリス人陶芸家バーナード・リーチがデザインしたバーである。
いままで、民藝運動関係者がデザインした建築として、東京駒場にある柳宗悦日本民藝館、京都にある河井寛次郎記念館に行ってきた。どちらもシンプルでぬくもりのある落ち着いた空間が印象的だった。
日本民藝館
河井寛次郎記念館
以前、日本民藝館の印象を「民芸とエキゾチズム」というエントリーに書いたことがある。

日本民芸館にあった柳宗悦の日常生活を写した写真を見ると、彼の家族は、椅子とテーブルの生活をしている。日本民芸館には、さまざまな民芸品や作品が展示されているけれど、畳の座敷や床の間はない。それらは、床に置かれた棚に並べられ、壁に掛けられている。柳宗悦は、日本や朝鮮の生活雑器から民芸品を見いだしているが、それらが使われていた生活そのものを再現するわけではなく、もともと使われていた生活の文脈から切り離し、再編集をしている。
………
柳宗悦がつくりあげた日本民芸館という世界は、すばらしく趣味がよい。だから、彼が、民芸品をそもそもの文脈から切り離して再編集したことはひとつの創作であり、すばらしいと思う。しかし、その世界を日本的、東洋的と単純に呼ぶことはできないようにも思う。柳宗悦は日本人ではあるけれど、彼の日本を見る目は、エキゾチズムなのではないか。
「民芸とエキゾチズム」

日本民藝館、そのなかでも柳宗悦が実際に生活していた西館は、純粋な日本家屋ではなく、椅子と机の生活を前提として作られた西洋化した日本家屋である。机や椅子、ベッドが侵入している現代日本の住居を先取りしたようなデザインになっている。しかし、日本と西洋の要素は雑然と折衷されているのではなく、ひとつの調和にまで昇華されている。ゆったりとした木の椅子とがっしりとした机が置かれた書斎も、家族がみなで食事ができる大きなテーブルが置かれた食堂も実用的で、居心地がよさそうである。
バーナード・リーチは、イギリス人の父と日本人の母を持ち、幼少の頃日本で暮らしていたこともあった。そのような出自のリーチは、日本と西洋の狭間にあった柳宗悦民藝運動と相性がよかったのだと思う。
リーチバーは日本趣味と西洋が融合した民藝のよいところが十二分に活かされている。壁は竹を編んだ素材で作られ、棟方志功の絵が飾られており、テーブルの上には民藝のやきものの灰皿が置かれている。しかし、全体としては日本風のしつらえではなく、純然たるイギリス風のバーである。木の床の上にじゅうたんが敷かれ、シンプルだけれども座り心地のいい椅子が並び、分厚い板のバーカウンターはよく磨きこまれている。スコッチを飲むのがよく似合う雰囲気である。
昔、いわゆる「民芸調」の蕎麦屋や居酒屋がよくあった。そのような店の多くは、柳宗悦バーナード・リーチが作った建築とは違い、日本の農家の要素が趣味悪くアレンジされていた。丸太を切って作った椅子ががたがた揺れ、炭を入れない格好だけの囲炉裏には埃がかかり、落ち着いて食事ができる雰囲気ではなく、実用的でもなかった。
しかし、最近では、日本の民家を趣味よくリノベーションして、居心地のよい空間を作っているお店も増えてきた。日本の生活の西洋化もすっかりこなれてきて、ようやく西洋と日本の調和がとれるようになるまで成熟してきたのだろう。
そのような現代の目で、日本と西洋の調和を先取りしていた柳宗悦バーナード・リーチの作品を見直すと、また新しい魅力が発見できるかもしれない。