夏目漱石の孫である松岡陽子マックレイン「漱石夫妻 愛のかたち」を読んだ。
漱石の妻、鏡子夫人には、悪妻説がある。この本は、孫の目から、鏡子夫人は悪妻ではなかったということを主張した本である。
私自身、漱石の作品や鏡子夫人が漱石について回想した「漱石の思い出」などを読んだ印象から、鏡子夫人は悪妻とはいえないという印象を持っていた。
漱石は、精神病の影響で、家庭内では暴君で、なかなか大変だったようだ。「漱石の思い出」には、鏡子夫人はが「病気だったらしかたがない」と覚悟を決め、夫と暮らす決心をする話がでてくる。なかなかできることではないと思う。
「吾輩は猫である」の主人と妻君の掛け合いを読んでいると、夫婦仲のよさを感じることができる。漱石が病気でないときは、なかなかよい夫婦だったのではないかと思わさせる。
しかし、「漱石夫妻 愛のかたち」で、漱石死後の鏡子夫人のエピソードを読んだら、これは、悪妻かもしれないと思った。漱石在世中は、朝日新聞の社員として、まずは不足のない生活はできていたようだけれども、裕福というほどではなかったようだ。漱石死後、「漱石全集」が出版されるなど、莫大な印税収入が生じたようだ。鏡子夫人はその収入をおもいきり浪費したようである。
……冬はお正月過ぎてから湯河原の天野屋旅館で二カ月ほど避寒し、春は京都の都ホテルに泊まって祇園祭を楽しみ、夏は日光中善寺ホテルで避暑、というような豪勢な生活を送っていた。京都に行くときは……その頃では最高級の、東海道線の一等展望車に乗っていた。(p129)
これでは、弟子たちは、漱石先生が生きていたらこんなお金の使い方をしなかったはずと思うのもわからないではない。
ただ祖母の気前の良さの恩恵を被った弟子たちが、その恩を忘れ、悪妻と呼んだのかと思うと、少々恩知らずで、皮肉なことだったと言える。
しかし、元はといえば鏡子夫人が稼いだお金ではない。えらいのは漱石であって、鏡子夫人も弟子たちもどっちもどっちかもしれない。
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