幕末維新を越えて

田安徳川家十一代目当主という徳川宗英が書いた「徳川家が見た幕末維新」(文春新書)を読んだ。
幕末維新を第三者として研究しているのではなく、自分の身内のできごととして書いているところが面白かった。
明治維新によって末端の武士はいわば失職して苦労したのだろうけれど、大名や大身の武士たちは倒幕派佐幕派に関わらず華族となって、倒幕の志士、公家、皇族と一緒に上流階級を形成し、その子弟たちは学習院で共に学んでいた。
作者は、学習院時代の徳川家の子孫ならではのこんな思い出を書いている。

 倒幕派の加賀前田家一族のご子孫も同級だった。特別な意識はなく、ごく普通にお付き合いしていた。
 ところが、学校の国史(日本史)の授業では幕末維新のところがうやむやのうちに終わってしまい、黒船来航から明治政府発足に話が飛んでいた。
 当時、幕末維新は遠い昔の話ではなかった。授業で教えれば、生徒のひいじいさんあたりの名が倒幕佐幕入り乱れて出てきてしまう。ご先祖批判になりかねないということで、先生方が気をつかわれたのだろう。
(p100)

戦前の学習院は皇族華族というセレブリティのための学校だった。秋篠宮悠仁親王お茶の水附属幼稚園に行くことになったのは、もう、学習院は皇族として交際すべきセレブリティが通う学校ではないからだ。それは、江戸時代から続いてきた日本のセレブリティの世界が変質したことを意味しているのだろう。今、日本のセレブリティはどこにいるのだろうか。

徳川家が見た幕末維新 (文春新書)

徳川家が見た幕末維新 (文春新書)