丸山眞男「日本政治思想史研究」にも、小林秀雄「本居宣長」にも、荻生徂徠の本居宣長への影響が語られている。
荻生徂徠の詩に関する言葉に、ほとんど本居宣長が書いたのではないかと思われるようなものがあった。「日本政治思想史研究」から引用してみたい。
「古人ノ詩ヲ学ブハ、今世ノ人ノ謡ヲ習フゴトクナリ……人ノ心ハ思フヲ官トスルユヘニ、閑暇無事ノ時デモ、何ナリト思フコトハアルモノナリ。況ンヤ物ニ感ズル事アレバ、其ノ事ニ随テ或ハ喜ビ或ハ怒リ或ハ哀ミ或ハ楽ミ或ハ愛シ或ハ悪ムト云フヤウナ情ガ内ニ起レバ、自然ト言ニアラハレ声ニ発ス、唯日本ノ和歌ト同じジコトニテ、サノミ修己治人ノ道ヲ説キタル物ニテモナク、治国平天下ノ法ヲ示スモノニアラズ」(経子史要覧巻之上)p112
次に、子安宣邦「本居宣長とは誰か」から、宣長の言葉を引用したい。
…阿波礼(あはれ)といふ言葉は、さまざまいひ方は変りたれども、その意(こころ)はみな同じことにて、見る物、聞くこと、なすわざにふれて、情(こころ)の深く感ずることをいふなり。(『排蘆小船』)p84
…心におもふ事あるときは、言にあげてうたふ。こをうたといふめり。かくうたふも、ひたぶるにひとつ心にうたひ、こと葉もなき、常のことばもてつづくれば、続くともおもはでつづき、ととのふともなくて、調(ととの)はりけり。かくしつつ、歌はただ、ひとつ心をいひ出るものにしあれば、いにしへは、こととよむてふ人も、よまぬてふ人さへ、あらざりき。(『歌意考』)p70
徂徠も宣長も、詩は、さまざまな物や事に触れて感じる感情を、そのまま言葉に出したものだと言っている。
徂徠と宣長の距離は近い。
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