インターネットの暗箱

最近、CNN Anderson Cooper 360°のことばかり書いているような気がするが、目の付け所が面白くて、英語が充分理解できなくてもついつい見てしまう。
しばらく前のAnderson Cooperでは、幼児性愛を推奨するかのような書籍について取り扱っていた。西欧諸国では、チャイルド・ポルノに対して厳しいけれど、番組でもこの本の作者に直撃インタビューをして、その著作の意図についてただしていた。
それだけに留まっていれば、それだけの話だけれども、さらに、この書籍を販売していたAmazon.comへ直撃取材を試みていた。Amazon.comの広報に取材を申し込んだところ、反応がなく、問題の書籍がAmazon.comから消えていたという。しかし、同じ作者のほかの書籍はそのまま販売されており、Amazon.comの本社ビルまで押しかけて取材をしていた。
法律的に発売が禁止されていないが、倫理的に問題がある商品をどのように扱うべきか、という問題はなかなか難しい。たしかに幼児性愛を奨励するような書籍には倫理的な問題があるかもしれないが、殺人を奨励するかのうような書籍は大量にあるし、また、かつては倫理的な問題があった書籍も古典になったものもある。Amazon.co.jpでは、マルキ・ド・サド悪徳の栄え」は当然、売っている。また、サルマン・ラシュディ悪魔の詩」も売っているが、イスラム圏向けのAmazonではどのように扱われているのだろうか。
Amazon.comは、書籍の販売、特にインターネット上での販売で、独占とまではいかないけれど、寡占的な立場を占めている。そのAmazon.comがどのような方針で書籍の販売を扱うのかということで、事実上の検閲となってしまう。
同じような問題として、Google八分がある。中国からは検閲の問題を契機として撤退したけれど、Googleは検索の対象から外しているウェブサイトがあり、これも事実上の検閲となっている。
また、Apple Storeでは、ポルノや暴力表現への検閲が厳しく、日本のマンガの多くはそれに引っかかってしまうという話もある。日本の電子書籍の販売において、なにがスタンダードとなるかはいまはまだ見えない状況だけれども、仮にApple Storeが寡占的な立場を占めれば、マンガの表現が制約されることになる。その一方で、海賊版がチェックされずに販売されているというニュースもある。
インターネットによって、尖閣諸島沖での中国漁船の映像が広く公開されたように、情報への透明性が高まるという効果がある。その一方で、インターネットのインフラストラクチャーとなっているサービスを提供している企業の内部がブラックボックスとなって、見えない検閲が広まっているところもあると思う。
Anderson Cooperの直撃取材が図らずもあきらかにしたが、Amazon.comに代表されるこの種の企業は、思いの外閉鎖的であることが多い。Googleも、検索アルゴリズムを公表しない理由は納得できるけれど、これもインターネットの世界のなかで大きなブラックボックスのひとつなっている。
私企業でありながらもインフラストラクチャーとしての公的な側面を持っているこれらの企業に対し、どのように情報公開を迫るべきか、大きな問題提起だと思う。

悪徳の栄え〈上〉 (河出文庫)

悪徳の栄え〈上〉 (河出文庫)

悪徳の栄え〈下〉 (河出文庫)

悪徳の栄え〈下〉 (河出文庫)

悪魔の詩 上

悪魔の詩 上

悪魔の詩 下

悪魔の詩 下