小学校の図書室に青い表紙のノンフィクションのシリーズが並んでいる棚があって、その本をむさぼるように読んでいた記憶がある。そのころから、奇想天外なとてつもない物語が好きだった。
大学では文化人類学の勉強をした(落ちこぼれだったけれど)。なぜ、文化人類学を選んだのか聞かれることがあるが、うまく答えられたことがない。結局、文化人類学の民族誌を読めば、とてつもない物語を発見できるということが、その理由かもしれない。
岩尾龍太郎「江戸時代のロビンソンー七つの漂流譚ー」を読んだ。江戸時代の漂流譚を集めた本である。漂流譚は、まさにとてつもない物語の宝庫である。この本も期待を裏切らなかった。
七つの漂流譚は三つに分類されている。ひとつは、無人の孤島にたどり着き、そこで長期間サバイバルを強いられたケース。もうひとつは、北方に流され、ロシア人と接触し、異文化コミュニケーションを通じて相互理解したケース。最後は、南方に漂流し、現地人に捕らえられたケース。もちろん、日本に帰還した人々の背後に、帰還できずに死んだ多数の人々がいた。
どの話もとてつもない物語なのだが、特に驚いたのは南方に流されたケースである。南方は比較的人口密度が高く、漂流の結果人と出会う可能性が高い。そして、当時は普通に人身売買が行われいて、漂流者は奴隷として転売された。
藤木久志「雑兵たちの戦場」には、戦国時代に西日本の戦場で捕らえられた捕虜の多くが、奴隷として東南アジアに売却された話がでてくる。同じようなことが江戸時代の漂流者の身の上にも起こっていたということだ。彼らの子孫はどうなったのだろうか。
柳田國男「島の人生」のなかに「青ヶ島往住記」という小篇がある。江戸時代、八丈島の先にある青ヶ島の歴史である。青ヶ島は火山島で、噴火のため住めなくなり住民が八丈島に逃げてくる。その後、青ヶ島に移住しようとさまざまな努力が行われるが、八丈島と青ヶ島の交通が大きな障害となった。ある時、青ヶ島へ見分に行った帰りに遭難して、房総半島に漂着してしまう。江戸に回送される途中にまた遭難して、こんどは伊勢の鳥羽に流れついてしまう。鳥羽からようやく八丈島に着いたときには1年の歳月が経っていた。これほどの苦難があったとは、まさに、とてつもない物語である。
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【新版】 雑兵たちの戦場 中世の傭兵と奴隷狩り (朝日選書(777))
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