水中の快楽

子どもの頃、毎週日曜日にスイミングスクールに通っていた。それほど水泳が好きだったという記憶もないが、スイミングスクールに行くのがいやだったわけではない。何も考えずに習慣として毎週水泳をしていた。
大人になって、なにか運動をしなければと思ったとき、いくつかのスポーツを試してみた。ジョギングをしたこともあったし、ジムに行ってマシントレーニングをしたり、エアロビックダンスのクラスを取ったこともあった。しかし、結局、長続きしたのは水泳だった。ここ1年少々、毎週土曜日の午前中にはゴルフスクールに行っているが、予定のない日曜日には近所の区立のスイミングプールに水泳に行くようにしている。
家を出るときには、スイミングプールに行くのが億劫に感じられることもよくある。けれど、いったん泳ぎ始めてしまえば、そんな気分もなくなり、プールをあがるときには爽快な疲労感がある。
うつ病で会社を長期休暇していた時、最初は、家で寝ていたけれど、少し元気がでてくると身体を動かしたくなってきた。しかし、雑踏を歩いたり、人と会って話したりするのは疲れるから、近所を散歩して猫の写真を撮ったり、スイミングプールに行って泳いだりしていた。
平日の区立のスイミングプールは空いていて、ただ黙々と3kmぐらい泳いだりした。もともと人嫌いなところがあるけれど、うつ病のときには特に人と接触するのがつらかったから、一人きりで泳いでいるのは気持ちがよかった。
ターンをして壁を蹴り、腕を前に伸ばして身体を一直線にして、水の中を進んでいく瞬間が気持ちいい。静寂の中、重力がなくなって浮遊感があって、なにか、世界で自分がたった一人になったような気分になる。いつまでも水面に上がらず、水中をそのまま進んでいきたくなる。
そんな瞬間を求めて、また、スイミングプールに通うのだろうと思う。