琵琶湖の水、大海原の水

このウェブログへのアクセス数はだいたい安定していてあまり増えもしないが、減りもしない。頻度高く書き込みをすれば多少はアクセス数が増えるけれど、過去のエントリーに対して検索でたどり着く人も多いようで、しばらく放置してもアクセス数が激減する訳ではない。
今年に入ってから始めた英語版ウェブログ(http://goo.gl/J3DhM)は、徐々にアクセス数が増えつつあったけれど、日本語版のウェブログに比べて1/3〜1/2ぐらいのアクセス数だった。しかし、とあるエントリーを書いたところ、アクセス数が10倍にもなり、驚いた。
このウェブログで、村上春樹カタルーニャ賞受賞スピーチ「非現実的な夢想家として」(http://goo.gl/jQFu9)についての感想を書いた(id:yagian:20110611)。日本語版のスピーチは見つかったけれど、オリジナルを確かめたいと思って英語版を探してみたが、見つからなかった。Youtubeにアップロードされていたスピーチの映像を見ると、村上春樹は日本語で話していた。エルサレム賞受賞スピーチ「壁と卵」は英語で話していたけれど、今回は日本語だったらしい。しかも、英語に翻訳されているものがないようだ。それであれば(著作権上は違法だけれども)、自分で英語に翻訳しようと思った。
そのころ、海外の村上春樹ファンのコミュニティでは、村上春樹がなにか感動的なスピーチをしたらしいという話は飛び交っていたけれど、誰もその内容を確かめた人がいないという状況だったらしい。
そこへ、ちょうどいいタイミングで"Haruki Murakami's Speech on Catalonia International Prize "As an Unrealistic Dreamer""(http://goo.gl/Gi2hH)をアップロードしたところ、私個人のウェブログ歴のなかでは歴史的なアクセスとなった。
日本語と英語でウェブログを書いていると、英語圏のネタを和訳して日本語のウェブログに使うこともあり、逆に、今回のように日本語圏のネタを英訳して英語のウェブログで使うこともある。
気分としては、和訳のときは、大海原の水を柄杓ですくって琵琶湖に撒いているような、英訳の時は、琵琶湖の水を大海原に撒いているような気分である。もちろん、このささやかなウェブログにとっては日本語圏のインターネットユーザーは事実上無限大であるけれど、英語圏はおなじ無限大でもさらに奥が深いような感じがする。琵琶湖の水を飲み干せといわれても無理だけれども、海の水を飲み干すのはもっと難しい。
私にとってのインターネットのおもしろさは、参加者の母数の多さである。私の書いていることは極めて狭く限られた趣味的なもので、インターネット以前の時代ではおなじ趣味を共有できる人にたどり着くのは難しかった。しかし、インターネットでは、ロングテールの原理で、そのような限られた趣味であっても同好の士と出会うことができる。その意味では、琵琶湖よりは大海原のほうがより確率が高まるのかなと思った。今回の経験で、そのことを改めて実感した。
そして、大海原に漕ぎ出してみると、そこにいる人々の多様性に圧倒される。琵琶湖に住んでいた鮎としては、大洋に住む魚たちがあまりにもカラフルなことに驚かされる。
琵琶湖には琵琶湖のおもしろさがあり、もちろん自分のルーツもそこにある。日本語でなければ書けないこと、日本語話者としか共有できないこともある。だから、日本語版のウェブログも辞めずに続けている。けれど、大海原のおもしろさはひとしおで、インターネットの良さはそこにある。琵琶湖から大海原に漕ぎ出す鮎が一匹でも増えて欲しいと思っている。