iPadとキーボード

つれあいがiPadを買ったので、触らせてもらった。よくできた機械だと思ったけれど、今の自分には必要ないかとも思った。
先日、かつて祖父の家(今は私のいとこが住んでいる)の改築祝いがあり、久しぶりに親戚が集まった。そのとき、私の叔母がiPadを使っているという話をしていた。彼女が言うには、パソコンはアルファベットで入力しなければならないけれど、iPadはアルファベット、ひらがな、数字のキーボードが切り替えられて、メールを書くのも簡単だという。たしかに、PCに触れたことがない人は、iPadの方が入門しやすいのではないかと思っていたけれど、そういう見方もあるのかと新鮮に感じた。
冒頭に、今の自分にはiPadが必要ないと思った理由は、その祖母と逆で、フルキーボードが付いていないという理由にほぼ尽きる。もちろん、iPadにワイヤレスのキーボードを接続してもいいのだけれども、それだったらノートPCの方が便利だと思う。
勝間和代ウェブログ親指シフトのキーボードを使っているという話を書いていた(「特殊なキー入力方式の効率性と選択の自由のトレードオフ親指シフトT9入力ユーザーの視点から。」 http://goo.gl/ZSSaL )。私自身は親指シフトのキーボードは使っていないけれど、自分と同世代の香りを感じた。
私がはじめてコンピューターに触れたときは、そこは文字の世界だった。MS-DOSCUI(Character-based User Interface)の世界、つまり、コマンドを入力して操作する環境だった。また、インターネットも最初は回線が遅くて、画像データを送受信するのに時間がかかったから、やっぱり文字の世界だった。私はあまりパソコン通信にははまっていなかったけれど、勝間和代パソコン通信からインターネットに移行してきたと書いているが、初期インターネットもパソコン通信に近い世界だった。
だから、その頃は、いかに早く文字入力するか、ということが重要だった。QWERTYキーボードが合理的という訳ではないのだろうけれど、私はQWERTYキーボードがそこにあったから、ブラインドタッチを練習し、それなりのスピードで入力できるようになった。少なくとも、手で書くよりは早いし、思考のスピードにもまずまず追随することができる。
PCが本格的に普及する以前、富士通ワープロを愛用している人も多く(現代の人はワープロという機械があったことを知っているのだろうか?)、それは親指シフトという方式のキーボードで、それに慣れるとQWERTYキーボードに戻れないという話を聞いていた。私はたまたま富士通ワープロを使う機会がなかったから親指シフトには移行しなかったけれど、世代的にはその可能性はあった。
親指シフトにせよQWERTYキーボードにせよ、PCが普及してインターフェースがGUI (Graphical User Interface)に移行しても、音声認識のソフトが開発されても、情報を入力するスピードという意味では、キーボードを凌駕するデバイスは未だに現れていない。たしかに、場所をとるという問題もあるし、習熟した人は携帯の文字入力をそうとうなスピードでするけれど、PCにテンキーで文字を入力している人を見かけないから、フルキーボードの方が使いやすいということなのだろう。
インターネット黎明期は、文字の世界であると同時に、コンテンツを見るのではなくて、自分でコンテンツを作る世界だった。そもそもいまのように無数のコンテンツがある訳でもなく、コンテンツを見るだけのユーザーというのは少なくて、自分で発信もして、他の人の発信した情報を見る、というユーザーが大部分だったと思う。まとまった情報を発信しようと思うと、フルキーボードが必要になる。
iPadは、簡単なメールやTwitterfacebook程度の分量の文字入力には問題ないけれど、今日、私が書いているようなまとまった量の文章を書くにはやや問題があるだろう。やはり、iPadは閲覧用のデバイスで、情報発信用のデバイスではないということだろう。iPadのよさは、閲覧用に割りきって、その用途に対して使いやすさを追求したところにある。だから、インターネットでまとまった情報発信をしたいと考えている私には今のところ縁のない機械ということだと思う。
iPadに直接関係ないけれど、私はインターネットはアーカイブだという意識がある。Twitterfacebookに書かれた文章はどんどん流れ去っていってしまう。その点、ウェブログは過去の文章がアーカイブされている。私のウェブログにアクセスする人の半数以上は、過去のエントリーに対して検索によってたどりついた人だ。Twitterへの書き込みをウェブログに流し込んでいるのは、アーカイブ化したいという気持ちがある。
PCという機械は絶滅の運命にあるのだろう。勝間和代親指シフトキーボードの選択肢が少なくなったことに苦労しているが、そのうちQWERTYキーボードも廃れるのだろうか。私は、指が覚えたQWERTYキーボードから将来の未だ見ぬデバイスの操作に慣れることができるのだろうか。