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自民党政権下の逆説明責任体制

雑感 時事

斉藤淳「自民党長期政権の政治経済学 利益誘導政治の自己矛盾」を読んだ。
斉藤淳は、衆議院補欠選挙民主党から立候補し、一年間だけ国会議員を務め、その後の選挙で落選した。もともとは政治学の研究者であり、現在、イェール大学の政治学の助教授である。この本は、自らの選挙活動、国会議員としての経験も踏まえつつ書かれた博士論文を邦訳したものである。なかなか興味深かった。
斉藤淳によると、自民党政権は利益誘導によって議席を維持してきたと言われるが、他国の利益誘導政治に比べると、誘導した利益の実績を客観的な数値で示すことが少ないという。新幹線の駅の前に自民党の有力政治家の銅像が立ったりすることもあるけれど、いわゆる利益誘導政治を行なっている国では選挙活動の時に、彼の力で誘導された利益がより具体的に示されるのだという。
日本の自民党長期政権が継続した理由として「逆説明責任体制」という仮説が提示される。有権者は、誘導された利益に対して、返礼として候補者に投票するのではなく、将来誘導されると思われる利益を確実にするために、地元の熱意を示すために自民党の候補者に投票するのだという。
自民党の候補者が集票力が最もあるのは、重要なインフラ、例えば、高速道路や新幹線が開通する前だという。実際に開通してしまえば、必ずしも自民党の候補者に投票する必要はない。開通する前こそ自民党の候補者に投票をして、インフラ整備をする「熱意」があることに関して地元が「説明責任」を果たさなければならないという構造にある。自民党(今ではさらに反動的な国民新党)の牙城である島根県が新幹線も高速道路が走っていないことが特徴的である。
さらに言えば、地方と都市の一票の重みの格差がこの手法を支えていた。インフラ整備の誘導を望む地方で一票が重いということが、自民党的利益誘導政治を支えていた。
この本の副題が「利益誘導政治の自己矛盾」となっているのは、利益誘導が実現することによって集票力が低下するという自民党政治の特徴を指している。長期的に見れば自民党がこの方法で集票しているかぎり凋落していくということだ。実際にも、小泉純一郎は「自民党をぶっ壊す」ことで、古典的な利益誘導政治を破壊しようとしたけれど、その後継者は彼の路線を継続することができずに、自民党は凋落することになった。
反グローバリズムとは何だろう」(id:yagian:20120107:1325895530)で書いたけれども、資本主義経済では、差異が利潤の源となる。そして、その利潤を追求することで差異が消滅し、資本は新しい差異を探すことになる。それと同じメカニズムが自民党政治でも働いていて、中央と地方の格差を利用して自民党は集票していたが、利益誘導を進めることでその格差が縮小すると集票ができなくなっていく、ということである。
今日は東日本大震災の一周年で、テレビもそれに関する番組で埋め尽くされている。しかし、私にはまだ生々しすぎて、というか、直後よりも今のほうがむしろ生々しく感じられて、震災の映像を見ることができない。「黙祷」という「形式」をとること自体、空々しい感じがしてしまって、今日はむしろ日常生活を淡々と過ごしたいという気持ちになる(もちろん黙祷をすることを批判している訳ではないけれど)。
まさに、この自民党の逆説明責任体制によって、福島に原子力発電所が立地したということだ。ほんとうはもう少しこのことを突き詰めて考えなければいけないのだろうけれど、今日はもう考えることができない。

自民党長期政権の政治経済学―利益誘導政治の自己矛盾

自民党長期政権の政治経済学―利益誘導政治の自己矛盾