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ブラック・スワン、リーマン・ショック、福島第一原子力発電所事故

雑感 地震 時事

今日のテーマの「ブラック・スワン」といっても映画の方ではなく、きわめて稀に起こる事象の方である。
かつて「金融工学」が非常に話題を集めた時期があった。リーマン・ショック以降あまりこの言葉を耳にしない。もちろん、話題にならないということだけで、金融機関では金融工学を応用して収益獲得の追求は相変わらず行われているのだろう。
反グローバリズムってなんだろう」(id:yagian:20120107:1325895530)で書いたように、資本は市場の不完全性を利用して利潤を得る。金融工学は市場の不完全性、より具体的には情報の不完全性を利用して、他者より早く将来の価格体系を予想することによって利潤を獲得する。
しかし、皮肉なことに差異を利用して利潤を得ることによって、結果的にの差異が縮小する。金融工学によっていちはやく将来の価格体系を精密に予測できるようになると市場はより完全に近づき、資源の配分がより最適に近づく。金融工学に基づく金融産業が「ハゲタカ」のように批判されていたこともあるけれど、基本的には、利潤を求める行動は市場の効率性を高めていることになる。
金融工学の具体的な内容についてはよく知らないけれど、いずれにせよある確率分布を仮定して統計解析によって将来の価格体系を予測しているのだろう。「ブラック・スワン」は、仮定された確率分布ではきわめて確率が低いとして捨象された事象が現実に発生することによってカタストロフィーが引き起こされることを指している。本来、市場は分権的であるゆえに、市場のなかには「ブラック・スワン」的な事象を想定して逆張りをしているプレイヤーも存在して、カタストロフィーを緩和するはずだが、金融工学によって画一的な予測が行われることで「ブラック・スワン」によるカタストロフィーが拡大したという批判がある。
これに対し、反資本主義者、反グローバリストは政府による規制を求める。しかし、政府は市場より効果的にカタストロフィーを防ぐことができるのだろうか。
以前からエネルギー・セキュリティや食料安全保障(なぜか、エネルギーの場合はカタカナで、食料の場合は漢字で表記されることが多い)について、市場より効果的に政策的に対応することは可能なのか疑問に思ってきた。
日本の場合、国内の需要を満たす十分なエネルギー資源は国内に存在しない(自然エネルギー主義者は反対するかもしれないけれど)は輸入に頼ることが前提となる。その場合、ある特定の国や特定の資源に依存することはエネルギー・セキュリティを低下させるため、エネルギーのベスト・ミックスを政策的に誘導すべきだと政府は主張する。しかし、エネルギー・セキュリティがもっとも高いエネルギーのベスト・ミックスは政府に知り得ることができるのだろうか。そして、もし、エネルギーのベスト・ミックスが予測できないとしたら、政府はどのようにエネルギー・セキュリティを高めることができるのだろうか。
日本のエネルギー政策を振り返ると、「ベスト・ミックス」を目指しながら(ほんとうにベスト・ミックスを目指してたのかは疑問もあるが)、原子力発電を推進した結果「ブラック・スワン」に遭遇して逆にエネルギー危機をもたらしてしまった。リーマン・ショックは市場が「ブラック・スワン」のカタストロフィーを防ぐことができなかった事例だが、福島第一発電所事故は政府もやはり「ブラック・スワン」のカタストロフィーを防ぐことができなかったことを示している。
現在、原子力発電所の大部分が停止しているにもかかわらず、停電せず電力は供給されている。これは、電力供給を地域独占とすることで、「平時」においてはかなり過剰な供給能力をもっていたということを示している。
おそらく、市場メカニズムを利用していたら、これほど過剰な設備投資は行われず、電力消費も安価だったはずだ。原子力発電所の事故が発生して、再稼働が難しい状況になったら大規模な電力不足が発生していたかもしれない。しかし、一方で、民間企業に委ねていたらカタストロフィーのリスクを想定して原子力発電所に投資する判断はしていなかったかもしれない。
現在、夏季に向けて電力不足が危惧されている。おそらく、取引、価格を自由化すれば、金融工学のように多様な取引を実現すれば、需要のコントロールも含めて需給の最適化が進むはずだ。一方で、現在のような固定的で安定的な価格は維持されないようになる。しかし、ガソリンも基礎的なエネルギー源であるにもかかわらず、電力と違って価格は乱高下するけれども、企業も生活者もそれに対応しているから、電力の価格も不安定になっても致命的な問題ではないと思う。そして、その結果、地域独占に寄る過剰投資と価格の高止まりも解消するはずだ。
ただし、「ブラック・スワン」は政府にも市場メカニズムにも解消できない。政府がほんとうにエネルギーのベスト・ミックスを知ることができ、かつ、それに向けた誘導手段を持っているならば別であるが、結局のところカタストロフィーを防ぐことができないのであれば、平時の効率性を優先して、市場メカニズムに任せたほうがよいように思う。