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「市場原理主義」と日本

最近、仕事が忙しくてなかなかウェブログを更新することができない。
昨日の金曜日の夜、久しぶりに大学時代の友人と飲み、カラオケに行き、午前様になった。「午前中」はゴロゴロと寝て過ごし、午後は久しぶりにまとまった時間、集中して本を読んでいた。そして、ようやくウェブログを書く時間を取ることができた。
たまにビル・エモットの本を読むと、なるほどと頷くことが多い。彼の言っていることがすべて正しいのか私には判断する能力はないけれど、日本国内にあまたいる「評論家」「ジャーナリスト」の言葉には首を傾げることが多いが、彼の言っていることはすっと理解できる。自分自身の感覚と似た人がいるという事実が確認できて、少し安心する。
ビル・エモット「変わる世界、立ち遅れる日本」を読んだ。3.11とユーロ圏の危機の前に書かれたという意味で、時事的には少々時代遅れになっているところはあるけれど、書かれていることの大部分は今でも変わっていないと思う。
このなかで、民主党鳩山由紀夫が主張していた小泉政権下の「市場原理主義」について批判に対する反論の部分を引用しよう。正鵠を射ていると思う。

…1990年代及びこの十年間に、日本が自力で回復し、改革してきた努力の失敗が残酷にも露呈することになる。回復と改革のプロセスによって多くの事象が変化したものの、労働市場を除けば、日本経済の基本的構造は何一つ変わらなかったのである。
 この事実はあまり理解されていないようだ。鳩山由紀夫氏は『Voice』誌(2009年9月号)で、「市場原理主義」が今回の経済危機の原因であると批判し、民主党が政権に就いたなら、新たな対策をとると述べている。

 彼の批判の一つ目の間違いは、そもそも日本には「市場原理主義」というものがまったく存在しなかったことだ。2001〜06の小泉政権は、市場力や自由化について、じつはめぼしい拡大を何ら行なっていない。
 公共投資の縮小や、銀行システムを一新し、完全ではないものの、日本郵政の民営化を推進したが、それらを除くと、規制緩和を推進する努力は、あまり見られなかったのである。
 経済と社会における、小泉政権の最大の変革で生じたのは、労働市場の二極化である。このプロセスはすでに1990年代に始まっている多が、小泉政権下で大幅に加速した。
 その改革によって、2008年にはパートタイマーや非正規雇用者が、労働者の34%を占める結果を生んだ一方で、フルタイムや正規の雇用者には手厚い保護と権利が保障された。これが世帯収入を長期的に減少させてデフレを惹起し、さらには貧困層の増大と、大きな所得格差を生んだのだ。
 しかし、これは「アメリカ型の市場原理主義」ではない。このような労働市場の二極化はアメリカには存在しない。むしろヨーロッパにおいて、より一般的である。ヨーロッパは日本と同じように、主要労働市場、つまり大半の労働者の雇用条件を改革する、政治的進取性に欠けていた。コストを削減して融通性を高める代わりに、若者や女性、移民からなる少数派の労働者が犠牲になったのである。
 このように二極化された労働市場は、厳しい市場原理主義によるものではない。そうではなく、既存の組織された正規雇用者の利益のためと、この既存勢力とあえて対決することを拒んだ臆病な政治の結果だった。…

 一方で、日本の国内需要は弱かった。なぜか?一つはデフレと賃金低下のせいだが、もう一つの原因は、日本がサービス業分野での生産性と効率の向上に失敗し、そこでの所得や利益を生み出すことができなかったからである。

 「市場原理主義」はその助けになったかもしれないのに、何ら実施されなかった。その結果、小泉政権を四発のエンジンを搭載ジャンボジェット機に喩えていうなら、正常に稼動していたのはそのうち一発のみで、他の三発のエンジン、つまりサービス業は、かろうじて、何とか稼働していたに過ぎなかったのである。
(p27-31)

私自身、近年の内閣のなかでは小泉政権を高く評価している。基本的に方向性は正しかったのだと思っている。ビル・エモットが言っているように、小泉政権の問題があるとすればその方向性を徹底しきれなかったことであると思う。
小泉政権を引き継いだ自民党の短命に終わった政権、そして民主党のやはり短命に終わった政権は、小泉政権の「市場原理主義」とは反対の方向を志向し、混迷の度合いが深まる一方である。
私自身、労働市場の二極化の既得権益者の一員である。しかし、「若者」を中心とした既得権益者に阻害されている人たちは、いまのシステムにもっと大きな声で批判をすべきだと思う。既得権益を得るために就職活動に奔走、翻弄させられている大学生を見ていると、彼らを代表する政治勢力が必要だと強く思う。
ロシアでプーチン政権への批判の声が上がっている。しかし、野党勢力の大部分は共産党か極右政党で、批判を受け止める政党がいない。日本においても、民主党は基本的には既得権益者側に立っている(既得権益者中の既得権益者を代表している国民新党と連立している!)。
橋本大阪市長は、労働組合と対決しているという意味で、既得権益者に斬り込もうとしている。その意味で、既存の政党に共感できない人たちが期待することはよくわかる。しかし、規制緩和によるあらゆる産業の活性化を目指している(「市場原理主義」)のだろうか。まだその全貌が見えていない。