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日本と保守主義

東日本大震災福島第一原子力発電所の事故以来、民主主義ということについて断続的に考えている。その一環として、エドマンド・バークフランス革命省察」を読んだ。今日はその感想について書きたいと思う。
これも以前から何回か書いているけれど、私の政治的な信条は、右か左かで言えば右、保守か進歩かでいえば保守である。読んで自分の考えにいちばんしっくりするのがハイエクである。自分なりにハイエクの考えをものすごく乱暴に要約すると、政府による主知主義的な計画には反対し、集合知の産物である市場や伝統を重視する、ということになると思う。
そもそも保守主義には、抽象的、理論的な著作よりは、具体的な実践を重視する傾向はあるから、進歩主義に比べて保守主義の代表的な古典というもものには欠けていることもあり、自分が保守主義だと思いながら、マルキシズムに代表される進歩主義の著作には親しんできたが、保守主義の著作はあまり読んだことがなかった。
そこで、最近、「保守主義」の立場の著作を読もうと思い、ハイエクも含めていくつかの本を手に取っている。この「フランス革命省察」は、イギリスの政治家であり思想家でもあるエドマンド・バークが急進的なフランス革命を批判し、イギリスの立憲君主制保守主義の立場から擁護したものである。
先にも書いたけれど、保守主義には、フランス革命におけるルソーや社会主義革命におけるマルクスのような求心力が強いイデオローグがいる訳ではなく、その主張が体系的に整理されている訳でもない。しかし、あえて保守主義の理論的な根拠を探すとするならば、大陸の合理主義に対するイギリスの経験主義哲学の流れということになるのだろう。そして、エドマンド・バークハイエクも経験主義を基礎としている。
フランス革命省察」を読んでいると、保守主義者を自認している私ですら両手を上げて賛成することができない部分が多々ある。例えば、世襲的貴族制を強く擁護しているところである。しかし、バークは「政治」は、抽象的な的な哲学の適用ではなく、現実に存在する諸制度、人間の利害関係のなかでよりよい統治を求めるものだと主張している。だから、バーク「フランス革命省察」はルソーの「社会契約論」とは違って、具体的なある時代のイギリス、フランスの政治状況と切り離すことができず、その主張は当時の文脈に強く依存している。だから、「フランス革命省察」の精神を現代の日本に当てはめるためには、細部の主張にこだわる意味はあまりなく、大局的な考え方に着目すればよいのだろうと思う。
バークは、フランス革命は現実を無視し、「基本的人権」という抽象的な哲学を政治に当てはめ、実際には特定の集団の利益がグロテスクにまで追求されており、かえって国民全体の利益を損なっていると指摘する。また、伝統的な制度を改良を加えつつ最大限に利用すること、道徳と財産(主として土地)を持ったエリートによる統治の重要性を指摘している。
保守主義」に共感する私でも、特に、最後のエリートによる統治(バークの時代のイギリスにおいては貴族)のところには正直言って抵抗を感じる。ポピュリズム衆愚政治としての大衆民主主義への批判は理解できるけれど、一方で、ポピュリズム衆愚政治を批判する者は、どうして自らの主張は優れて正しいと立証できるのかその根拠がよくわからないと思ってしまう。ポピュリズムが誤っているとしても、エリートだって同じように誤りを犯すのではないか、と考えてしまう。
あまり報道がなく、現状がよくわからないけれど、ポピュリズムの極みだったベルルスコーニ内閣から政治家を排除した専門家によるモンティ内閣に移行したイタリアには注目している。モンティ内閣は「貴族制」ではないけれど、現代におけるエリート政治の一つの形態だと思う。ポピュリズムが機能不全に陥っていたイタリアがエリート政治によって蘇生したとするならば、日本にも大いに参考になるところがあると思う。
政治家ではないマリオ・モンティを首相に登用するために、ジョルジョ・ナポリターノ大統領は彼を終身上院議員に指名した。イタリアの政治制度については詳しくないが、イタリアの上院は基本的には選挙によって選ばれるが、大統領は終身上院議員を指名することができるという。戦後の日本は、二院制を維持していた。戦前の二院制貴族院衆議院の組み合わせだったから、二院のそれぞれの位置づけは明確だった。しかし、戦後の参議院衆議院の関係は不明瞭である。衆議院を監視する存在として参議院があるのだと思うけれど、両院の性格の違いがはっきりしないため、監視機能がうまく働かず、単にねじれ現象によって政治の停滞を招いている。これに比べ、「良識の府」として終身上院議員の制度を利用してモンティ内閣を作ったイタリアの方が二院制が機能しているように見える。また、小泉内閣において竹中平蔵自民党参議院比例代表区の名簿第一位に登録されて参議院議員になったが、これもマリオ・モンティと似た参議院の使い方だった(これに限らず、小泉内閣の施策はアイデアに満ちていたとしみじみと思う)。
今日は、まとまりのないエントリーになってしまった。最後に、これまでの文脈から外れたことを指摘して、まとまりのないまま終わろうと思う。
バークは、依拠すべき伝統として、名誉革命で成立したイギリス憲法の優越性を主張する。しかし、日本の保守主義者にとって依拠すべき伝統があるのだろうか。明治憲法昭和憲法も移植された憲法であり、とても「伝統」があるとは言えない。日本の多くの「伝統」主義者が依拠する「伝統」は、根の浅い「明治」の伝統にすぎないことが多い。その意味では、日本では保守主義が成立しないのではないかとも思う。地に足がついた伝統主義者というと、柳田国男ぐらいではないだろうか。

フランス革命の省察

フランス革命の省察

社会契約論/ジュネーヴ草稿 (光文社古典新訳文庫)

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