常識的に考えてみようよ

大飯原子力発電所の再稼働問題についての報道などを見ていると、極論、暴論が多すぎてうんざりする。もう少し常識的にふつうに考えられる人はいないのか、と思ったりする。
まず、エネルギー問題、原子力発電問題については、コストやリスクを伴わない夢のような解決策はないし、また、リスクをゼロにすることは決してできないこと大前提として受け入れるべきである。さまざまな対策に伴うコストやリスクを比較衡量して、どのような対策を組み合わせるかを大局的に判断をすべきだと思う。ある一つの選択肢だけを取り上げても、その是非については判断は下せない。
例えば、私の震災以降の被曝量を考えれば、レントゲン撮影による被曝が圧倒的に多く、夏休みの旅行でのアメリカ東海岸への往復飛行による被曝が次ぐ。厳密にリスクを比較衡量した訳ではないけれど、ばくぜんとレントゲン撮影の方が、肺炎や結核のリスクより小さいと考え、また、アメリカ東海岸に行きたいという満足の方が旅客機に長時間搭乗することによる被曝のリスクより大きいと考えたということだ。福島第一発電所を由来とする被曝のことを考える上で、こういった被曝や自然由来の放射線による被曝も含めて考える必要がある。
もちろん、放射線による被曝だけを考えても意味はなく、その他のリスクもあわせて考える必要がある。地震の危険性が高いことを承知で東京に住み続けているのは、現在の職業のためでもあり、東京という都市への愛着のためでもある。
また、インフルエンザの予防接種をするのは、予防接種をせずにインフルエンザに感染することによる危険性と予防接種自体による危険性の比較衡量の結果である。予防接種による危険性だけを考えて予防接種の是非を考えることは意味がない。
ということは、常識的に考えれば明らかだと思うけれど、どうなのだろうか。
で、こういう考えに基づけば、大飯原子力発電所の再稼働の是非は、大飯原子力発電所のことだけを考えても決まるはずがなく、さまざまな対策の選択肢を比較衡量するためのデータが明らかにされなければ判断しようがない。国や電力会社は、判断するための情報をできうる限り提供すべきだと思うけれど、国民を「常識的に考えることができない」愚民視しているから情報を出そうとしないのだと思う。
東日本大震災以降の日本の状況と福島第一原子力発電所の教訓は、日本の地震活動がかつてなく活発な時期に入ったということと、原子力発電所の安全性は以前想定していたよりもはるかに危ういということである。一方で、原子力発電所のような大規模な発電施設を遊休化すれば、電力会社の経営が圧迫され、また、電力料金を値上げせざるを得なくなる。
今すぐ原子力発電所を全廃すべきか、一部の原子力発電所については運転することを許容するのか、という点については、客観的、科学的に判断を下すことは困難だと思う。だから、この二つの選択肢のいずれかを選ぶかについては、最終的には政治的な判断に委ねざるを得ないと思う。
しかし、個別の発電所の稼働の是非を政治的に判断すべきかは別問題である。仮に原子力発電所の稼働を再開するのであれば、必要な情報を共有した上で、合理的に考えられることは合理的に考え、できうる範囲の対策をとることが前提とすべきである。
この夏に特に電力不足が懸念されているのは関西電力管内である。日本では、東日本と西日本の間での電力の融通には制約があるから、東日本より西日本の発電所に対する電力需要が高い。もし、その電力不足を原子力発電所の再稼働で補うと判断したならば、次には、西日本の原子力発電所の安全性について相対比較をすべきである。
前述のように、どのような安全基準を設定しても原子力発電所のリスクをゼロにすることはできない。つまり、いくら厳しいストレステストをしても、原子力発電所を稼働させることについて、安全を絶対的に保証することはできない。しかし、原子力発電所の安全性を、立地条件(地震などの危険性)、施設の老朽化の程度などいくつかの指標で相対評価することはできるはずだ。
そして、相対的に安全性が高い原子力発電所から必要性に応じて再稼働させればよい。また、原子力発電所の安全性を向上させるための対策は、再稼働の見込みがある発電所に集中させるのが効率的だ。
関西電力は、美浜、高浜、大飯の三か所に原子力発電所を持っている。実は、国や関西電力は相対比較をし、そのなかで大飯が最も安全性が高いことを知った上で再稼働を検討しているのだろうか。ただ、単に定期点検が終わったタイミングだけで選ばれたのか。
電力を融通できる範囲を考えれば、関西電力の範囲だけではなく、西日本全体で相対比較をした方がより安全な原子力発電所を稼働させることができるはずだ。また、相対比較の結果を発表したら、相対的に危険とされた原子力発電所の再稼働が困難になることを恐れて評価結果を公表していないのだろうか。しかし、西日本、東日本のそれぞれの範囲で原子力発電所の安全性を相対比較し、危険度が高いランクにされた発電所は、常識的に考えれば廃炉にせざるを得ないと思う。
そういった情報なくして、大飯原子力発電所の再稼働を判断せよといわれても判断できるはずがない。まして、個々の原子力発電所の再稼働をその都度政治判断するということはナンセンスである。
あと、もうひとつ気になるのは、需要側の対策として計画停電について明示的に検討される様子がないことである。確かに、突然発生する大規模な停電は極めてコストが大きい。しかし、一時的かつ事前に計画された停電であれば、コストを極小化することはできるはずだ(震災直後の「計画停電」は無計画なものだった)。だから電力不足に対する有力な対策になりうる。
停電による影響が致命的な施設は、自家発電装置を設備すればよい。電力会社にとっても、計画停電という選択肢が用意できるのであれば、そのような施設に対して自家発電装置を設備する援助をしてもむしろ安上がりかもしれない。
例えば、消費電力がピークとなる夏季の一か月間、平日の五日間を輪番停電するとする。事業者などは、その曜日を週末に振り替えた休日にすればよい。また、その地域の住民が輪番停電中の休日を快適に過ごすためのビジネスが流行るかもしれない(ネットカフェとかショッピングセンターとか)。
ただ、計画停電を成功させるためには、事前の準備が必要である。事前に電力会社と協議し綿密に計画すれば、鉄道や信号などの公共的なインフラに対する影響を最小化したり、対応策を準備することもできるだろう。本来であれば、去年の夏が終わった時点から準備をはじめるべきだったと思う。始まっているのかもしれないけれど、少なくとも愚民たる国民には知らされていない。もし、国や電力会社が準備していないとしたら、彼らが愚民なのだろう。
どこかで常識的に考えている人がいるのだろうか。