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アナキストの悲劇

なんとなく音楽を聴く気分になれず、iPhoneの豊平文庫(http://goo.gl/OWSv)というアプリで青空文庫に収録されている大杉栄の評論、随筆を読んでいた。
少々本題から外れるけれど、豊平文庫はなかなかすぐれものである。iPhoneを買う前、青空文庫はもっぱらウェブログで引用するために文章を検索することに使い、一冊通して読むということはなかったけれど、豊平文庫を買ってからは文庫本感覚で普通に読んでいる。充分実用的な読書に耐えうる。
Kindleのハードウェアは持っていないけれど、iPhoneのアプリもインストールしている。青空文庫のようにamazon.comから版権切れの作品を無料で入手することができるから、ディケンズとか少しずつ読んでいる。iPhoneKindle(http://goo.gl/MPrtO)も充分実用的な読書ができる。日本の出版社もさっさとamazonから電子書籍を出版してほしい。
さて、話題は本題に戻る。
以前のウェブログでも触れたけれど、戦前の政治に関する評論を読んでいて、すっと頭の中に入ってくるのは、福沢諭吉石橋湛山大杉栄である。
私は、なんども繰り返し書いているけれど「保守主義者」である。稲本が書いているように(id:yinamoto:20120514)、「保守主義」「右翼」という言葉は多義的で、誤解を招きやすい。右翼と左翼という区分の他に、国家を信頼する/しないという軸がある。保守主義、右翼で国家を信頼するとファシズムになり、国家を信頼しないという立場を突き詰めるとリバタリアンになる。私はリバタリアンほど徹底していないけれど、基本的には国家を信頼していないから、ファシズムとは反対の立場に立っている。
大杉栄は戦前の左翼の代表者の一人である。彼が活動していた時期、日本の左翼は、ボルシェビキコミュニスト)とアナキストに分裂していく。上記の分類でいえば、ボルシェビキは国家による統制を信頼する立場、アナキストは労働者の自主的な管理を目指す立場である。
その意味では、リバタリアンよりの保守主義者である私はボルシェビキには同情はまったくないが、個人の自立を通じて社会を形成しようという方向性はアナキストと重なっている。その意味で、アナキストには共感できるところが多い。
また、大杉栄個人が魅力に富んでる。大逆事件で処刑される幸徳秋水もその社会的使命感も心惹かれるけれど、さまざまなスキャンダルとそれに対する彼自身の身の処し方も含めて大杉栄は魅力的だ。
そして、私の「文学的感性」には、アナキストの悲劇性が心を打つ。ジョージ・オーウェル「カタロニア讃歌」を読んでいると、ナチス・ドイツの支援を受けて装備が優秀なフランコ軍に対して、ボルシェビキアナキストが対抗する。オーウェルアナキスト軍に参加しているのだけれども、アナキスト軍はフランコ軍との戦闘より、ボルシェビキとの一種の「内ゲバ」によって弱体化していく。
ファシストにせよボルシェビキにせよ、その主義からしても組織的な支援を受けることができる。しかし、アナキストは組織が弱体で、義勇軍への参加も含めた個人の支援にとどまる。その結果、アナキストは、体制と戦う以前にボルシェビキにいわば必然的に敗れていく。
日本の左翼運動において、中江兆民幸徳秋水の時代にはボルシェビキアナキストの対立は明確ではないかったが、ソヴィエト・ロシアが成立し、国際的な共産主義運動を支援、展開するようになるとボルシェビキアナキストの対立が始まる。左翼運動の中でアナキストである大杉栄は孤立してしまう。
さらに、関東大震災の時に伊藤野枝とともに虐殺され、結局、大杉栄の衣鉢を継ぐアナキストの流れは途絶えてしまう。
その後、ファシズムボルシェビキコミュニズム)が対立する時代になっていく。長期的に見れば、ファシズム第二次世界大戦によって、コミュニズムは冷戦によって勢力が失墜するが、アナキズムリバタリアニズムのような個人の主体性から出発する政治的な立場は大きな勢力を得ることがない。
今回のアメリカ大統領選挙において、共和党の予備選でリバタリアンであるジョン・ポールが出馬した。しかし、当然ながら、泡沫候補扱いであり、また、現実に泡沫候補であって、彼のリバタリアンとしての主張が報道されることはない(特に日本では)。
アナキストが勝利を得ることはない。それがアナキストの悲劇である。また、リバタリアンも勝利を得ることはないだろう。それゆえ、大杉栄に心を惹かれる。

日本脱出記

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大杉栄自叙伝 (中公文庫BIBLIO20世紀)

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大杉栄獄中記 (大杉栄ペーパーバック)

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大杉栄評論集 (岩波文庫)

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カタロニア讃歌 (ちくま学芸文庫)

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