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孫正義という政商

私は四階建ての小さなマンションに住んでいるので、輪番制になっている理事会の役員が三年に一回ぐらい回ってくる。前々回は理事長、前回は副理事長、今回は監事をやっている。
このまえ、理事会が開かれた。役員の中に地元の区役所に勤めている人がいて、補助金制度などに詳しい。彼がいうには、補助金をフルに活用して、固定価格買取制度を利用すれば、太陽光発電は5年ぐらいでもとがとれるからやってみたらどうかという。
個人的には、固定価格買取制度には反対である。民間企業に「固定価格」で電力を買い取らせるきわめて社会主義的制度が効率的であるはずがない。しかし、一方で、私が住んでいる小さなマンションの屋上への太陽光発電パネルがわずか5年で投資が回収されるという話を聞き、現在の固定価格の水準であれば太陽光発電は急速に普及するだろうなと思う。もっとも、買取電力量が増えれば電力価格に反映され、政権交代が起きれば「固定価格」が引き下げられ、死屍累々ということになるかもしれないけれど。
今回の固定価格買取制度の導入の推進役の一人に孫正義がいる。彼は、自らが太陽光発電をビジネスとして立ち上げようとし、また、政府に対して協力に補助制度化を働きかけた。
保守主義の立場から見ると、彼に対してはアンビバレンツな感情を持っている。
ヴァージン・グループのチャールズ・ブランソンは、規制産業に参入することが大きなビジネス・チャンスになると語っていた。規制産業には規制ゆえの超過利潤があり、既存の保護された企業に打ち勝つことでその超過利潤を得ることができるのだという。今は航空産業もずいぶん自由化されたけれど、ヴァージン・エアは規制産業への参入というコンセプトでなされたという。
孫正義は、まさにこのチャールズ・ブランソンのコンセプトを忠実に守っていると思う。通信業界という規制産業に参入する。確かに、彼のお陰で通信業界に競争が導入され、価格が低減した。しかし、規制産業への参入は、規制ゆえの超過利潤を得ることを目的としているため、規制そのものの撤廃、自由化を本気で主張することはない。例えば、既存企業が有利な周波数帯を独占することは批判するが、周波数帯をオークションにすることを主張することはない。
今回の太陽光発電と固定価格買取制度についても、似たような印象を持っている。少なくとも現在においては、太陽光発電は何らかの補助なしではビジネスとして成立しない。そこで、有利な制度を作ることを国に働きかけ、実現し、そして、太陽光発電プラントを設立する。少なくとも、いまの固定価格買取制度においては競争原理は働かず、超過利潤を得ることができるシステムになっている。
個人的には、ヤマト運輸小倉昌男を尊敬している。彼は、「制度」に基づく超過利潤を求めるのではなく、政府と厳しく対立してもなお一貫して運輸業の自由化を進め、その自由競争のなかで勝ち抜くことを目指していた。小倉昌男に比べると孫正義は破壊者という側面はあるものの、あまりにも政商ではないか、という疑念を拭えない。