尖閣諸島紛争の意味と中国のインターネット事情

中国の反日デモも急速に収束したようだ。あれだけ急速に収束してしまうと、かえって政府のデモをコントロールしているという事実が顕になってしまうが、中国政府としてはそれで良いのだろうか。それとも、それぐらいコントロールできるという実力を誇示したいのだろうか。

さて、今回の尖閣諸島の問題について、International Herald Tribuneに書かれた記事を和訳したい。バランスがとれた記事で、おおむね納得できる。全文はやや長いので、後半部分のみの翻訳である。

「中日の尖閣諸島紛争の意味」"The Meaning of the China-Japan Island Dispute" International Herald Tribune September 19, 2012 (http://goo.gl/M6SFG)

いったい何が起きているのか?

表面的な要因ですら非常に複雑である−彼らの議論の基礎となっている論理は異なる年代に基づいているため、領土紛争に関する両者の議論ともに正しい−中国の怒りについて真に懸念すべきことは、中国政府によって煽られているナショナリズムに起因していることだと、中国と海外のコメンテーターの双方が指摘している。

日本の右翼のナショナリズムも、煽動する主要な要因である。2005年に、日本の歴史教科書から日本が第二次世界大戦中に犯した犯罪について削除したことに対して、中国人が今回と同様の規模で抗議活動を行った。西洋諸国の外交官は、ナショナリスト東京都知事石原慎太郎が、東京都が尖閣諸島を所有者の家族から買収しようとしていると4月に発表したことで現在の緊張が引き起こされたと批判している。(先週、日本政府は石原氏の手から尖閣諸島を切り離すために買収した。中国の反応から考えると、この対策はうまくいっていない。)

同様に、中国の街頭での反応も、非常に暴発しやすい状況である。また、この反応は中国共産党による支配の正当性に対する疑問と無関係ではない。田氏によると「長年、中国政府の正当性は次の二つの要素に基礎を置いていた。一つは経済の高度成長。もう一つは愛国心ナショナリズムである。」中国政府は悪意に満ちたナショナリズムを奨励してきた。今日、経済成長の鈍化が中国政府の正当性を弱めており、「中国政府はよりナショナリズム愛国心に依存するようになる可能性はきわめて高い。」

これらのことによって、諸外国は中国に対して不安に感じ、信用できないと思っている。「その結果、中国は国際社会に敵対し、摩擦は永続するだろう。」

中国の防衛大臣梁光烈と面会したパネッタ氏は、火曜日にアメリカの懸念ついて率直に語った。「現在の緊張関係について、双方に対して沈静化するよう促している、この紛争を外交的、平和的に解決するためのコミュニケーションチャネルを維持するよう促している」とロイター電は伝えている。

アメリカは、中国の漁船団が尖閣諸島に向かっており何が起きるか分からないという状況で、もし、暴力が起きたら、日米安保条約のためにこの事件に巻き込まれる可能性があり、関心を高めている。

中国政府の一部や国に雇われた評論家は、中国が好戦的な姿勢を強めることの国際社会におけるリスクを理解している。過日、国営メディアは「理性的」愛国心を大量に呼びかけていた。同様に、グローバル・タイムスは、中国人に「ダークサイドに落ち込まないように」促していた。

しかし、経済成長の鈍化が進むにつれ、中国政府は正当性を強めるためにどのくらいナショナリズムを志向するのかと、人々は考えている。また、結局、中国の経済成長は、国際的なイメージへの無関心を助長しているのだろうか。そして、アジアでの紛争の可能性は高まっているのだろうか?

EUは、もともと第一次、第二次世界大戦の反省を踏まえ、ヨーロッパで戦争が起きないようにすることをその大きな目的として結成された。ポイントは、ドイツとフランスが安定した関係を築きあげることにある。東ヨーロッパでの紛争はあったものの、ドイツとフランスの関係は安定している。ユーロ危機においても、この二か国の協調は維持されている。

東アジア、東南アジアにおいては、中国と日本の関係が安定することが重要である。しかし、日本は第二次世界大戦でのアジア諸国への侵略の後遺症から抜け出ることができず、アジアのリーダーシップを主体的に担うつもりもないし、また、アジア諸国もそれを受け入れるとは思えない。

一方、中国共産党反日を大きな目的として結党されており、今でもナショナリズム愛国心を鼓舞するためには反日を利用している。また、日本以外の周辺国と紛争を抱えていて、中国のリーダーシップを受け入れようとするアジア諸国はない。そう考えると、中国共産党政権が倒れない限り、東アジア、東南アジアの不安定性は継続し続けるように思われる。

さて、英語版ウェブログ"Everyday Life in Uptown Tokyo"( http://yagian.blogspot.jp/)に、尖閣諸島関連のエントリーを書いた。しかし、Googleが運営するblogspotは中国からはグレート・ファイヤーウォールに遮られて見ることができない。そこで、中国のウェブログサービス「新浪博客」にアップロードした(http://blog.sina.com.cn/u/2559889015)。もっとも、英語なので、アクセス数はさっぱり伸びないけれど。

あと、中国版Twitterの「新浪微博」(http://weibo.com)につぶやいてみた。おもしろいことに、グレート・ファイヤーウォールで遮られているWikipediaのURLを書いて発信しようとすると、発信自体ができないようになっている。さまざまな講演を集めたTED(http://www.ted.com/)のトップページにはリンクを張ることができるけれど、中国のインターネットの自由化を訴える講演" "Behind the Great Firewall of China"(bit.ly/NSbizZ)にはリンクを張れなかった。なかなかきめ細かい検閲である。The New York Timesの記事にはリンクを張れたが、なかには検閲されているページもあるのかも知れない。

個人的には、ぜひ、私のウェブログが検閲の対象になって削除されてしまい、それをネタにて新しいエントリーを書いてみたいと思っている。しかし、中国語で書かないと検閲に引っかからないかも。