「ヘタうま」と「ウマへた」

今回も英語版ウェブログ(http://goo.gl/AltqE)の邦訳です。

日本語に「ヘタうま」という、うまく英語に翻訳することができない言葉がある。「ヘタうま」は、「へた」と「うまい」という単語を結合した言葉で、「へた」というのは、技術が優れていない、素朴という意味で、「うまい」は技術が優れている、洗練されているという意味である。

1980年代に日本のイラストレーター湯浅輝彦が「ヘタうま」という概念を主張した。彼は、「へた」に見えるけれど実際は「うまい」イラストレーションがいちばん優れていて、それを「ヘタうま」と呼んだ。同時に、「うまい」けれど優れていないイラストレーションを「ウマへた」と呼んで批判した。

彼の「情熱のペンギンごはん」のイラストレーションを紹介したい。写実的ではないけれど、非常に技術が高いと思う。少なくとも素朴ではまったくないので、私はこれを「ウマうま」と呼びたい。

ひとつ前のエントリー「ホイットニーが歌う歌は大嫌い、キャロルが歌う歌が大好き」(http://murl.kz/zoPK1)で、ホイットニー・ヒューストンキャロル・キングの比較をした。湯浅輝彦の言葉を借りれば、ホイットニー・ヒューストンの歌は典型的な「ウマへた」である。彼女の歌はきわめて技巧的だが中身がない。

ソニーは、かつては今のアップルのような存在だったが、現在では輝きを失っている。ソニーウォークマンを発明したが、iPodiTunesiPhoneを発明できなかった。ソニーだけではないが、多くの日本の電器メーカーは不振に陥っている。日本最大の電器メーカーのひとつであるパナソニックは、2013会計年の巨額な損失見込みについて公表した。(http://murl.kz/oFPyX) 私自身、日本の電器メーカーの製品を買いたいとはまったく思わないけれど、iPodiMaciPhoneなどのアップル製品を実際に購入している。

電器製品のスペックを比較するとき、日本製品がいちばんいい時もあるけれど、その日本製品を買おうという気にはさっぱりならない。たぶん、それらの製品は、ホイットニー・ヒューストンの歌、「ウマへた」に似ているのだと思う。

ホイットニー・ヒューストンのスペックはたいていの歌手より高いだろうけれど、彼女の歌にはまったく感動しない。同じように最近のソニー製品には感動しないけれど、アップル製品は琴線に触れる。

「なぜアップル製品を買うのか」(http://murl.kz/WT29G)というエントリーで次ように書いた。「最近のPCは、スペックについてはさほど差がないので、私にとっては感触が重要である。この意味で、iMacは、感触が非常にいいモンブランの万年筆と同じである。」アップル製品は技巧に劣るとは思わないので、「ヘタうま」ではなく「ウマうま」と呼びたい。しかし、Appleが紙の上でのスペックを追い求めていないことは確かである。例えば、iPhone5のディスプレイのサイズはスマートフォンのなかで最大ではないけれど、これは使いやすさを考慮したからである。

私が見たことがある電化製品のなかでいちばん奇妙なものの一つは、日本の大手コンピューターメーカーである富士通の空気清浄器付きPCである。 (http://murl.kz/8F7fM) 誰が空気清浄器付きPCを欲しがるのだろうか?これは「ウマへた」だろうか。いやいや「ヘタへた」だ。