ミナサン、減税はおキライですか?

TPP参加をめぐる賛成派の主張も反対派の主張も本質をついてないため、隔靴掻痒の感がある。
関税の引き下げは減税である。したがって、その関税の対象品目を購入する人のすべてに利益をもたらす。
ミナサン、減税はおキライですか?
一方、関税の引き下げによってその品目を国内で生産している人にとっては不利益となる。
経済学では、消費者にもたらされる利益を「消費者余剰」、生産者にもたらされる利益を「生産者余剰」という指標で計測するが、関税引き下げによってもたらされる「消費者余剰」は「生産者余剰」より大きい。また、通常、利益が及ぶ消費者の数と生産者の数を比較すると消費者の方が多い。
単純に考えれば、国民全体という観点からは関税は引き下げるべきである。
したがって、関税によって守られている生産者は、その費用を負担している消費者に対し、関税が存在することの意義を立証する責任がある。
ここまでの議論には、特に貿易相手国は登場しない。国民の利害だけを考えても基本的には関税の引き下げという減税をしたほうがよい。つまり、TTPの交渉とは無関係に日本が自発的に関税を引き下げることで日本国民全体の利益になるのである。
日本において関税の引き下げに関して議論の対象になるのは主として農産品である。
例えば、コメは402円/kgの関税が課されている(「輸入統計品目表(実行関税率表)実行関税率表(2013年4月版) 」http://goo.gl/mPSxb)。一方、コメの国際的な指標価格(Thai産)は約46円/kg(2012年産「世界経済のネタ帳」http://goo.gl/Xmoek)である。もちろん、日本産のコメとThai産のコメは品種が異なるから、コメの関税が撤廃されたとしてもJaponica種のコメが46円/kgで輸入できる訳ではないが、きわめて高率の関税が課せられいることは理解できると思う。実際、事実上コメの輸入されない水準の税率になっている。
消費税の引き上げに伴い、食料品などの必需品についてより低い税率を適用すべきとする「軽減税率」という議論がある。私は消費税はsimpleな制度であるところにmeritがあると思っているので「軽減税率」には反対である。しかし、10%程度の消費税であっても食料品に「軽減税率」を適用すべきと主張している人は、当然ながらコメの高税率には強く反対してしかるべきだと思う。
前述のように、国民全体で見れば「消費者余剰」の方が「生産者余剰」より多いのである。だから、関税を撤廃しても消費者から生産者へ所得を移転すれば生産者が得ていた利益は当面維持できるし、消費者にとってもmeritがある。関税引き下げや撤廃によって影響を受ける生産者に対して補償することで打撃を緩和すればよい。日本でも過去に同様の政策は行われている。国内の炭鉱やその周辺地域に補償をしながら、日本は石炭生産から撤退した。
国内の農業といっても、国際競争力がある品目とない品目に大別できる。この二つを混同、ないしは、あえて分別しない議論が多い。日本の農業は、分散錯圃と呼ばれる複雑に分割された形態の農地が制約条件になっている。このため、養鶏、養豚、集約的な施設園芸といった広い農地を要さない農業、私は「土から離れた農業」と呼んでいるが、は国際競争力がある。一方、コメ、麦、酪農といった広い農地を要する農業、「土が必要な農業」は、国際競争力に乏しい。関税引き下げが問題になるのは後者であり、それにfocusを絞った議論をすべきである。
また、いわゆる内地と北海道では農業の規模が異なる。北海道はAustraliaやCanadaに対抗するのは難しいが、Europe並の規模になっている。だから、内地の農業を保護する水準で関税を設定するか、北海道の農業を保護する水準とするのかで、消費者の負担は大きく異る。
最後に、TPPにおける交渉について。
TPPの原協定の加盟国はSingapore, Chili, New Zealand, Bruneiの四か国である。これに現在の交渉には、U.S.A., Australia, Viet num, Peru, Malaysia, Canada, Mexicoが加わっている。このmemberを見ると、農産品や資源の輸出国や小国が中心で、大きな国内市場を持っている国はU.S.やMexicoぐらいである。自由貿易協定は、輸出国だけで締結しても効果は小さく、大きな輸入国が参加することが重要である。TPP交渉の参加国にとっては、U.S.についで日本が協定に参加することはきわめて大きなmeritがある。
だから、普通に考えれば日本の交渉力は強いし、他の加盟国も最終的には日本が受け入れられない条件は納得するはずである。交渉事だから現段階では強気の主張をするのは当然のことであるけれど。