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WTO脱退論?

昨日のエントリー「ミナサン、減税はおキライですか?」(id:yagian:20130426:1366927946)で、TPP交渉への参加の是非について基本的な考え方を整理してみた。今日はその補足をしたいと思う。
TPPに参加することは日本の主権の重大な部分を譲り渡すことになるから反対するという主張がある。その人たちは現行のWTO協定についてはどう考えているのだろうか。
TPPへの参加が主権を損なうのであれば、WTOはさらに主権を損なっている。WTOから脱退すべしと主張するのであれば一貫性はあると思う。逆に、WTOへの参加を維持すべきと考えているのであれば、TPPとWTOの相違を説明する必要があるだろう。
貿易自由化交渉はWTOですべきであり、個別の二国間、多国間の交渉、協定には反対という立場はありうると思う。理想的にはそのとおりである。貿易の自由化はより多くの国が参加したほうが効果が高いし、GATTの創立の目的は第二次世界大戦の原因のひとつとなったblock economyを防ぐことにある。この主旨に立ち返ればWTOに専念すべしという主張には合理性はある。
GATT/WTOでは、"round"と呼ばれる一連の交渉によって協定は更新されてきた。1986年から1995年のGATT Uruguay Roundが協定締結に至った最新のroundである。これによってWTOが設立された。日本に影響を与えたこととしては、コメの「ミニマム・アクセス」の受け入れなどがある。WTO設立後、2001年にDoha Development Roundが始まったが、紆余曲折を経て、現在は交渉が中断しており、今のところ再開する見込みは立っていない。
今のWTO協定は1995年の合意である。これ以降、新たな課題はさまざま生じているし、また、Uruguay Roundの結果も必ずしも十分満足すべきものではなかったから、貿易の自由化を進めるべき論点は多い。このため、世界の各国間で二国間や多国間のFTA(Free Trade Agreement)やEPA(Economic Partnership Agreement)の交渉、締結が進められている。TPPは多国間のEPAである。
FTAEPAがblock economyになりうる可能性はある。しかし、実態としてはあるEPAに参加することが他のEPAに参加することを妨げる訳ではない。日本でもTPP以外に二国間EPAを締結しているし、交渉も進めている。また、TPPに参加することで中国や韓国とのEPA交渉ができなくなることもない。
Doha Development Roundが進む可能性があるともかく、そうではない現状において個別のFTAEPAを反対する論拠は薄いと思う。
また、TPPに反対する人のなかに、TPPを利用してU.S.が日本の制度を改変することを狙っていると主張する「アメリカ陰謀論」を唱える人もいる。
しかし、一般的に言えば、U.S.国内でのTPPへの関心は低く、U.S.のnewsでTPPについて目にすることはほとんどない。参加国を眺めてみれば、関心の低さは理解できる。TPPへの交渉参加国は、Singapore, Chili, New Zealand, Brunei, U.S., Australia, Viet num, Peru, Malaysia, Canada, Mexicoと日本であるが、U.S.にとって重要な市場となりうる規模を持っているのはCanada, Mexico, 日本ぐらいであり、しかもCanada, MexicoとはFTAが成立している。U.S. と日本は重要な貿易相手国同士ではあるけれども、現在は重大な通商問題はない。日本にとっては有力な農産品輸出国を含むTPPへの参加は今後のEPAの動向を決める重要性があるけれど、U.S.にとってはさほどのimpactがある訳ではない。
「アメリカ陰謀論者」は、U.S.がきわめて戦略的に交渉に臨んでくるように考えている節があるが、実態はもっと混沌としている。基本的には、U.S.は自国の国益よりもより普遍的とU.S.自身が考えている筋論を主張する。貿易に関わる交渉であれば、自由化によってあらゆる国に利益をもたらすということを主張する。しかし、当然のことながら、最終的な合意は「筋論」だけに基づくことはない。U.S.国内にもさまざまな特殊利害があり、その関係者のlobbyingが行われ、国会議員は選挙区に立地する産業や有力企業に有利になるように働きかける。筋論と特殊利害が混沌としている中で、混沌としながらU.S.の方針が決まり、合意に至る。この「混沌」は、U.S.でも日本でも変わらないし、それほど戦略的体系的な「陰謀」は実在しない。陰謀論者に共通することだが、「アメリカ陰謀論者」はU.S.を過大評価している。
しかも、現段階ではTPPへの交渉に参加しただけである。仮に政府がTPPに合意しても、国会で批准されなければ協定は発効しない。貿易に関する協定ではないが「気候変動に関する国際連合枠組条約京都議定書」に対してU.S.は合意しつつも批准をしなかった例もある。
TPP反対論者に問いたい。この際、WTOも脱退しちゃいますか?