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Americaから見た太平洋戦争

最近、大正から昭和初期にかけての政治史に関する本を何冊か読んだ。
日本が対米開戦に至る経緯について新知見があった訳ではないけれど、自分なりに整理ができたような気がする。
重要な点をまとめると次のようになるだろう。

  • 明治憲法は権力を分散させるように設計されていた。元勲、元老憲法外の存在として国家意志を統合していたが、彼らが死ぬことでそれぞれの権力(政府(総理大臣、各大臣)、国会(貴族院衆議院)、陸海軍、枢密院、宮中など)の意志を統合することができなくなった。
  • 国家意志を積極的に統合することができなくなると、それぞれの権力がバラバラに既成事実を積み上げるようになり、それを事後的に調整することしかできなくなった。また、それぞれの権力内部も統制できなくなっていた。
  • 意志決定(があるとすれば)は、既成事実の追認でしかなく、日本全体の観点からの戦略はなく、また、方針の転換はできない。
  • その状況を象徴するのが満洲事変、日中戦争である。陸軍中央は関東軍を統制できず、既成事実を追認し、政府は陸軍の行動を追認した。しかし、特に日中戦争はその目的、戦争終結に向けた戦略が不明確で、最終的には太平洋戦争の敗戦まで結びついてしまった。また、対米開戦前の日米交渉の過程において、中国から撤兵という陸軍に痛みを与える大きな方針の転換はできなかった。

これらの本を読んで気になったことがあった。
外交交渉や戦争は相手がある話である。しかし、Americaやその他の連合軍側の情報、見方についてほとんど書かれていなかった。対米交渉を日本の側からみると、上にまとめたような意志決定の構造を踏まえれば、Americaは到底受容できない要求を出し続けることで、日本を戦争に追いやったように見える。一方、Americaは意図的に日本を戦争に追いやったのだろうか、それとも、経済制裁と外交交渉によって中国からの撤退を実現できると考えていたのだろうか。
まず、Americaにおける一般的な「太平洋戦争観」を知ろうと思い、ごく短い入門書であるMark Black "The Pacific War: A Very Brief History"という本を読んでみた。日本人である私から見ても客観的で公平に書かれていると思った。
いくつかおもしろい発見もあった。例えば、この本のなかでは、日中戦争を"the Second Sino-Japanese War"と呼んでいた。日清戦争が"the First Sino-Japanese War"というわけである。そういう見方をしたことはなかったけれど、確かにそのような考え方もありうると思った。
また、日本はAmericaと戦争をしたように思っているけれど、この本の中では必ずallied forcesと書かれている。つまり、日本は、Americaとだけではなく、U.K.やAustralia、New Zealandなどとの連合軍と戦っている。特に、Australiaから見れば太平洋戦争での日本との戦闘は重要なのだが、日本にはあまりAustraliaと戦争したという認識はないように思う。
さて、この本のなかで、対米開戦前の日本の戦略を次のようにまとめている。理路整然としているが、当時の日本ではこれほど明確に戦略が意識されていたとは思えないが、海外から日本の行動を解釈しようとすればこのようになるだろう。

  • 日本は南方作戦と東方作戦を立案していた。
  • 南方作戦では、香港、Malayaを攻撃し、Bismarck列島、Java、Sumatraを占領し、AustraliaとNew Zealandを孤立させる。
  • 東方作戦では、Pearl Harbourを奇襲し、Philippines、Guam、Wakeを占領する。AmericaのAsiaへの連絡を絶ち、America国民の士気を喪失させる。
  • その後は防衛に専念する。日清戦争日露戦争では、限定された軍事目標の達成を目指すことでより強い国家からの勝利を得た。その教訓に従っている。

南方作戦、東方作戦は実施され、一定の成功を収めた。しかし、戦闘と並行して講和に向けた積極的な働きかけが行われた形跡はなく、日本側に、日清戦争日露戦争の教訓を踏まえた戦争終結の戦略が明確にあったとは思えない。しかし、そういった戦略なしに対米開戦に踏み切ったとすれば、信じられないほど無謀だということになる(実際に信じられないほど無謀だった訳だが)。
一方、Americaはどのように考えていたのだろうか。この本では、日米交渉の最終段階におけるF.D. Rooseveltの考えについて、以下のように説明している。

The American government was prepared to make a counter offer to these proposals when the American president, Franklin D. Roosevelt, was informed that the Japanese were developing plans for war with the West and that Japanese forces were being moved towards Indochina. As a result of these Japanese war movements, Roosevelt felt that the Japanese were not negotiating in good faith and commanded Secretary of State, Cordell Hull who was negotiating with the Japanese, to not deliver any counter-proposal.

Franklin D. Roosevelt大統領が、日本が西洋諸国との戦争のための作戦を立案しており、日本軍はインドネシアに向けて移動していると知らされていた時に、America政府はこれらの提案(日米交渉における日本からの最終的な提案)に対する返答を検討していた。これらの日本の戦争に向けた策動の結果、Rooseveltは日本は誠意を持たずに交渉していると考え、日本と交渉していたCordell Hull国務長官に、返答をしないよう命じた。

この解釈だと、Rooseveltが意図的に日本を戦争に追い込んだのではなく、日本の戦争に対する準備を知って、交渉による解決を断念したということになる。しかし、日本が和戦両様の準備をすることは当然であり、日本の戦争準備によって交渉を断念するというのもnaiveすぎるように感じる。
まだ、この段階では真偽を判断することはできない。もう少し専門的な本を読もうと思う。

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