やぱっり「アーティスト」「エコノミスト」という言葉は嫌いだ

自分でもよく理由が説明できないのだが、どうしても気になってしかたがないツボのようなものがある。
稲本(id:yinamoto:20131123)は、「民衆」とか「日本人」とか、大雑把に人をくくる言葉を自覚なく使うことが気になるらしく、よくそのことについてblogに書いている。私の場合は「アーティスト」や「エコノミスト」という言葉が気になってしかたがない。
この前、民放のnewsでannouncerが「今年の紅白歌合戦の出演アーティストは」と言っていたため、思わず「「紅白歌合戦」に出場するのは「歌手」だろ、「歌手」!」(http://goo.gl/WFm2z5)とtweetしてしまった。
英語の"artist"という言葉にprofesionalなperformerという意味はある。

art‧ist [countable]
1 someone who produces art, especially paintings or drawings:
2 a professional performer, especially a singer, dancer, or actor:
3 informal someone who is extremely good at something:
(Longman Dictionary of Contemporary English)
http://www.ldoceonline.com/dictionary/artist

だから、その意味で「アーティスト」という言葉を使っているといえなくもない。しかし、”artist”という言葉を聴いて最初に連想するのは"1"の「芸術家」という意味だろう。だから、仮に"2"の専門的な演者という意味で"artist"という言葉を使ったとしても、そうとう気取った表現であることは間違いない。
Bob Dylanにこんな言葉がある。

Journalist: Do you think of yourself primarily as a singer or a poet?
Dylan: Oh, I think of myself more as a song and dance man, y'know.
Bob Dylan, press conference at KQED, San Francisco, Dec. 1965, quoted in: Joe Kohut and John J Kohut, eds., Rock Talk (1994)

Bob Dylanの歌詞は「インテリ」好みで、詩人"poet"としての評価が高いけれど、本人は"poet"と呼ばれるのは当然ながら好まない。おそらく、Dylanは自分が"a song and dance man"であることをproud ofしていて、Journalistの質問に仄見える"singer"よりも"poet"の方が上等という発想を否定したのだと思う。
理屈はいろいろつけられるけれど、このDylanの回答、単純にとてつもなくかっこいい、そう思いませんか?
そんなBob Dylanに"artist"と呼びかけたら即座に否定するだろう。もともとの英語の"artist"という言葉もそういう言葉なのに、それをカタカナ語にした「アーティスト」は胡散臭いことこの上ないし、とてつもなくかっこ悪い。
自覚的に胡散臭いゴールデンボンバーが「アーティスト」を自称したとしたら、それはなかなかおもしろいと思う。しかし、「アイドル」であることにproud ofしている人たちを「アーティスト」と呼ぶのは一種の侮辱ではないだろうか。
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「アーティスト」というカタカナ語は胡散臭いが、「エコノミスト」というカタカナ語はその上をいく。
英語の"economist"という言葉は、普通に翻訳すれば「経済学者」という意味になるだろう。日本での「経済学者」と「エコノミスト」という言葉の使い分けはない。

e‧con‧o‧mist [countable]
someone who studies the way in which money and goods are produced and used and the systems of business and trade
(Longman Dictionary of Contemporary English)
http://www.ldoceonline.com/dictionary/economist

日本では、大学などに所属して学会を中心に活動している経済領域の研究者を「経済学者」と呼び、主として学会外で経済に関する発言をしている人を「エコノミスト」と呼んでいるようだ。
「経済学者」を名乗るには一定の資格が必要だが、「エコノミスト」は、美しく言えば玉石混淆、ありていに言えばクソもミソも一緒になっている。
経済学者を名乗れる水準の発言をしているのならば、「経済学者」を名乗ればよい。
経済学によって開発した理論、modelを活用して予測に従事している一種の技術者であるならば「経済予想家」とでも名乗ればよいのではないか。
経済学には依拠せずに経済予測をしているのならば「相場師」だろう。
意味不明の「エコノミスト」というカタカナ語を使っている時点で、どう考えても欺瞞がある。
だいたい、経済に関わっているからといって、経済学者がいちばん偉い訳ではない。現実的に経済の動向を的確に予測しているWarren Buffettは決して"economist"ではない(当然、カタカナ語の「エコノミスト」では決してない)。
もし、「エコノミスト」の人たちが自分の職業をproud ofしているのであれば、より正確な名前で呼ばれたいはずである。
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やぱっり「アーティスト」「エコノミスト」という言葉は嫌いだ。