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"Bandit(匪賊)"としてのAl-Qaeda

時事 読書 雑感

Eric Hobsbawm "Bandits" (エリック・ホブズボーム「匪賊の社会史」)を読み返した。
Eric Hobsbawmは、イギリスのマルクス主義歴史学者で、"The Invention of Tradition" (「創られた伝統」ちなにみ、kindleで廉価版が発売されているので、一読することをお勧めします)が有名だと思う。
マルクス主義では「歴史」はイデオロギーに拘束されていると考える。だから、マルクス主義歴史学では、「歴史」の虚偽を暴くことによってそのイデオロギー性を批判することが大きなテーマとなっていた。"The Invention of Tradition"では、Scotlandのquiltの「伝統」が近代化によって「創られた」ものであることを実証的に示している。
"Bandits"では、「部族社会」の解体から近代資本主義が成立するまでの期間の農村社会において"bandit(匪賊)"という集団が一般的に現れること、そして、その集団が「革命」とどのような関係を持ちうるのかが検討されている。
Eric Hobsbawmのテーマ設定はマルクス主義的な関心に基づいているけれど、叙述は教条的なところは少なく、興味深い事実の提示が多くて、マルクス主義自体に共感していない私でも面白く読める。
Eric Hobsbawmは、この"bandit(匪賊)"という現象を次のようにまとめている。

 この種の義賊団は歴史上、きわめて普遍的に認められる社会現象の一つであり、しかも面白いことにどれも、ある共通の型を示している。…この斉一性はある文化が伝播したため生じたものではなく、農村社会―それが中国であれ、ペルー、シチリアウクライナインドネシア、等々であろうと―農村部における類似した状況の反映なのである。…社会関係からいうと、それは部族組織と血族組織の発達した段階から近代資本主義に至るまでの中間にある―ただし、血族社会の解体期と資本制農業への移行期を含む―あらゆるタイプの社会に発生しているようである。

 …近代的農業制度、つまり資本主義的および資本主義以後の農業制度はもはや農民社会のそれではなくなっており、義賊をうみだすことをやめる。…広い意味での「近代化」、つまり経済発展と能率的な交通・通信と行政の組合わせは、義賊も含めてどんな種類の匪賊団であろうと、それが栄える諸条件を奪ってしまう。…

マルクス主義的な発展段階説の発想が気になるが、Eric Hobsbawmは世界に広く"bandit(匪賊)"という現象が発生している豊富な具体的事例を提示している。
Al-Qaedaは、Pakistanのtribal areaやAfganistanの山岳地域など「血族社会の解体期と資本制農業への移行期」にある地域に根拠地を置いて活動をしており、明らかにEric Hobsbawmが示した"bandit(匪賊)"と共通する要素がある。一方で、古典的な"bandit(匪賊)"は地域的な現象にとどまっていたが、Al-Qaedaは国際的なnetworkを持ち、先進国の都市でterrorismを実行することができる点が大きく異なっている。
Eric Hobsbawmの研究によれば、"bandit(匪賊)"は、政府の取り締まりなどによって根絶することはなく、その社会経済的な基盤が失われることによって消滅する。Al-Qaedaの根拠地において、彼らへの直接的な攻撃によって根絶することはかなり困難なのだと思う。実際、これまでのAfganistanやPakistanでの戦闘の結果がそのことをよく表していると思う。そう考えると、遠回りに見えるけれど、それらの地域で「経済発展と能率的な交通・通信と行政の組合わせ」を実現させることがAl-Qaidaを根絶するための近道ではないだろうか。
Eric Hobsbawm以後の"bandit(匪賊)"研究の進展については知らないが、Al-Qaidaに対処するにはこのような観点からの研究が必要だと思う。また、国際的なnetworkを持った"bandit(匪賊)"と古典的な"bandit(匪賊)"との比較研究も興味深く、また重要だろう。
もし、そのような研究があればぜひ読んでみたい。

匪賊の社会史 (ちくま学芸文庫)

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創られた伝統 (文化人類学叢書)

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