読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

原典を読むのがいちばん楽しい:Marco Polo「東方見聞録」を読む

岩波書店から刊行されている月村辰雄・久保田勝一訳のMarco Polo東方見聞録」を読んだ。
「百聞は一見に如かず」というべきか、やはり原典を読むに如くはない。もちろん、Franchは読めないので、ほんとうの意味での原典は読めないので和訳だけれども。
東方見聞録」はさまざまな写本があり、異同も多いようだ。和訳も種類が多い。私はどれがoriginalに近いのかよくわからないけれど、amazonでの紹介文を読むと、この月村・久保田訳がoriginalに近い翻訳をいちばん意識していたようなので、このversionを選んだ。
お恥ずかしい話なのだが、「東方見聞録」をMarco Poloが活躍する中世の冒険譚だと思い込んでいた。原典を読むと、Marco Polo自身の体験はほとんど書かれておらず、彼が旅行した地域の情報を中心にまとめた冷静な地誌だった。Marco Poloが実際に旅行をしたか疑問を呈する向きもあるようだが、Google Mapで位置を確かめながら読むと、記述はかなり正確で、少なくとも実際に旅行した人の見聞に基づいていることが納得できる。もちろん、ZipanguやAfricaの東海岸など明らかに伝聞情報で書かれたところもある。
13世紀中頃、Veneziaの商人だったMarco Poloの父親と叔父であるNiccoloとMaffeoはCentral Asiaを旅をし、Kublai Khanに出会う。Kublaiは、二人に教皇からの使者を派遣するように要請する。NiccoloとMaffeoはいったんVeneziaに戻り、今度はMarco Poloを連れてKublai Khanを訪れる。行きは陸路で北京まで至り、しばらくKublai Khanの宮廷で働き、帰りはIndian Oceanを経てVeneziaまで帰ってくる。「東方見聞録」では、おおむね行程順にそれぞれの土地の地誌が語られる。
東方見聞録」に物語としてのおもしろさを期待すると裏切られ、退屈な記述の連続に見えると思う。しかし、13世紀に書かれた地誌として、それぞれの関心に基づいて読むならば、読者ごとにおもしろさを引き出すことができる本だと思う。それこそが「原典」を読む楽しさだろう。
私が興味をもったことのひとつは、Nestorian(「ネストリウス派キリスト教徒」)の分布である。Marco Poloは、それぞれの土地の住民が、Christianなのか、Muslim(「サラセン人」)なのか、偶像崇拝者なのか必ず書いている。これを読むと、13世紀の段階ではAsiaの広い範囲でNestorianがIsramと拮抗していることがわかる。
この時代、Central Asiaの主要部分はMongolianが征服している。おもしろいことに、Mongolianの王たちは、Isramに帰依したもの、Tibetan仏教に帰依したもの、そして、Nestorianismに帰依したものがいる。Kublaiに「ナイアン」というNestrianの王が反乱をおこす話がでてくる。「ナイアン」の領地は女真高麗など朝鮮半島から中国東北部だったようだ。もちろん、「景教」とうい名でNestorianが中国に存在していることは知っていたが、それでもNestrianの分布はAsiaでも西部が中心という印象を持っていた。しかし、朝鮮半島の領主がNestrianだったということは意外だった。Nestrianがなぜほぼ消滅したのか、その歴史的経緯とEuropeとAsiaの関係に与えた影響について興味がわいた。
Zipanguについてどのように書かれているのか、日本人としては興味がある。当然のことながら、この部分は伝聞情報なので必ずしも正確ではない。しかし、元寇について同時代の記録として書かれているということはおもしろい。戦闘の経緯は正確ではないけれど、Mongolianが侵略した船団が台風の被害にあったことは書かれている。伝聞によってどのように情報が歪むのかを考える事例として興味深い。
前述のようにMalco Poloは中国から海路で帰国する。中国とIndiaで交易が行われていたようだし、Indian Oceanの交易網はMadagascarやZanzibarまで広がっていたようだ。元の滅亡後の15世紀に鄭和(彼はMuslimである)がIndian Oceanを経てAfricaまで遠征するが、この交易網を考えれば比較的容易だったのではないだろうか。
印象的なのは、この時代のMalco Poloにはまだ異教徒を蔑視する視線(もちろん「サラセン人」や「偶像崇拝者」に対する反感はあるけれど)がないことだ。Kublai Khanは世界でもっとも優れた君主として、また中国も豊かな地域として描かれている。そういったことは、原典を読んでこそ感じ取ることができる。

マルコ・ポーロ 東方見聞録

マルコ・ポーロ 東方見聞録