DataからSoccer日本代表について考えてみる:「サッカーデータ革命 ロングボールは時代遅れか」を読む

クリス・アンダーセン(Chris Anderson)、デビット・サリー(David Sally)「サッカーデータ革命 ロングボールは時代遅れか」("The Number Game Why Everything You Know About Football Is Wrong")を読んだ。
SportsへのData Analysisの適用を扱った本としては"Money Ball"が著名だが、これに比べると新鮮味に欠き、叙述が冗長だと思う。しかし、Soccerに関するData Analysisの成果を紹介してくれており、興味深い点もある。
かんたんにこの本で紹介されている分析結果をまとめてみよう。

  • Soccerの勝敗にteamの実力が与える影響は50%程度であり、残りの50%は偶然性。Baseball、Basketballなどと比較すると番狂わせが起こりやすいSportsである。
  • 得点の増加、失点の減少のいずれも勝ち点の増加に影響を与える。ただし、得点1点の増加に比べ、失点1点の減少は、勝ち点の増加に与える影響は1.5倍である。
  • Possessionの多いteamほど勝率が高い。ただし、Possessionが低くとも勝率を高める「弱者の戦略」もありうる(Premier leagueのStoke Cityが代表例)。
  • teamのなかの最も優れた選手の水準を高めるより、最も劣った選手の底上げをした方が効果が大きい。
  • 監督のteamへの影響力は15%程度である。拮抗したprofessional leagueにおいては最終的なteamの成績に大きな影響を与えうる。

さて、この分析結果を踏まえ、FIFA World Cupでの日本代表の結果について考えてみよう。
2010年South Africa大会のgroup leagueの成績は2勝1敗(対Cameroon 1-0、対Netherlands 0-1、対Denmark 3-1)であり、今回の2014年Brazil大会では1敗2分(Cote d'Ivoir 1対2、Greek 0対0、Colombia 1対4)だった。
明らかに実力差があったNetherlandsとColombiaに負けるのはしかたないとして、その他の試合については実力が拮抗していたから結果はかなりの程度偶然性によると思われる。確かにBrazil大会の結果は満足できるものではないけれど、South Africa大会の日本代表の方が優れていたとは簡単に結論づけられない。おそらく今後とも日本がWorld Cup本選に出場した時は、傑出したteamになることは難しいから、偶然性に支配され、ある大会では幸運にもgroup leagueを突破し、また別の大会ではgroup leagueで敗退するということを繰り返すのではないだろうか。そして、偶然に支配された結果だけを分析してもなかなか有効な対策は見いだせないかもしれない。
今回の大会での日本代表は、center backとgoal keeperが弱点だったと思う。他のpositionではEuropeのbig leagueで活躍している日本人選手がいるが、この二つのpositionでは苦戦している。失点を減らすこと、最も劣った選手の底上げの重要性を考えれば、本田や香川に着目するよりは、center backとgoal keeperの強化の方が効果的だろう。
とはいえ、club teamであれば補強は容易だが、国の代表であるとその国に優れた選手がいない場合には短期的な底上げは難しい。中期的にはこれらのpositionの選手の育成に力を入れるべきだが、短期的には力が劣る選手を戦略、戦術で補う必要がある。
Zaccheroniがpossessionを重視した戦術を採用したことは理解できる。center backとgoal keeperを補うために、team全体でpossessionを高めて相手teamのchanceを減らそうとしたのではないだろうか。また、data analysisの結果も、possessionを高めることで勝率を高めることを示している。
日本より実力の劣るteamと対戦するとき、特に、Asiaでの予選を戦う時は、possessionを高める戦術は有効だったと思える。しかし、日本より実力で優るteamと対戦するときは、思うようにpossessionを高めることができず、破綻することも多かった。Zaccheroniが率いた日本代表は、格下のteamには確実に勝ち、格上のteamには点を取り合って負けてしまうという印象があった。
Confederation Cupが典型的な事例だと思う。実力に優るteam相手では、possessionを高めることで守備の弱さを補うことができず、得点を取りつつも大量失点をしてしまう。しかも、今回のWorld Cupでは、Spain対Netherlands戦に象徴されるようにpossessionが高いteamに対する「弱者の戦略」がより洗練されたように思える。
日本代表の選手たちは「自分たちの戦い方」に固執していたように見えるが、Asia予選とWorld Cup本戦では違う戦略、戦術で戦う必要があったのかもしれない。その意味では、World Cup本戦で戦略、positionを入れ替えたSouth Africa大会での岡田監督の選択は現実的だったと思う。
"Money Ball"は、予算の制約が厳しいOakland Athleticsがdataを活用して「弱者の戦略」を導き出す物語だった。「サッカーデータ革命 ロングボールは時代遅れか」の最終章で「弱小チームからデータ革命が起きる」と予測している。
日本代表にもdata analysisを徹底的に活用して独創的な「弱者の戦略」を提示して欲しいと思う。

サッカー データ革命 ロングボールは時代遅れか

サッカー データ革命 ロングボールは時代遅れか