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テレビ報道の公平性

BBCの「EU離脱」に関する報道

NHK-BSやスカパーでBBCのニュースをよく見ている。最近は、当然ながら「EU離脱」に関する報道が多く、なかなか興味深い。

BBCとしては「EU離脱」に対して中立的な立場を保っている。残留派、残留派の双方の政治家に対するインタビューも多い(なかなか厳しい質問をする)し、それではなく、市井の人々の意見も丹念に取材している。例えば、ある日のニュースでは、農家の「EU離脱」に関して異なる立場の農家を取材していた。

イギリスのなかでもかなりの大規模の農家で、東欧からの農業労働者を雇用している。実際にジャガイモを選別するラインで働いている農業労働者の様子も取材しており、彼らに対してインタビューもしていた。この農家は、自ら東欧の農業労働者を雇用するだけではなく、他の農家へ農業労働者を斡旋するビジネスもしている。この農家(農家というよりは農業経営者といった方がよさそうだが)は、当然、ヨーロッパのなかで自由に人間が移動できるEU残留に賛成している。

次に紹介された農家は、EU共通農業政策に不満を述べていた。EUは手厚い農業保護政策で知られているが、環境保護政策にも熱心で、補助金の見返りに作付る農作物や農法にさまざまな制約がある。この農家はその規制に反対しており、EUから離脱してイギリスとしての望ましい農業政策を実施すべきだと主張していた。

手厚い共通農業政策の継続を望む農家が多いのだろうかと漠然と考えていたけれど、別の観点からの賛否があることがわかり興味深かった。

日本のテレビ報道だったらどうなるだろうか

いま紹介した二つの農家の報道のように、連日、さまざまな観点でEU離脱に関する情報が提供されている。私は投票する訳ではないけれど、イギリスのさまざまな側面についての理解が深まった。

日本のテレビで、このように広く、深い報道ができるだろうか。正直に言って、大いに疑問がある。

例えば、安全保障法制が審議されていたとき、日本の安全保障について理解を深める絶好のチャンスだったけれど、BBCのように「広くて深い」報道ができただろうか。例えば、賛否双方の立場からの主張をじっくりと(きびしい質問も含め)聴くインタビューができていただろうか。また、安全保障法制は諸外国と深い関わりがあるけれど、米国、中国、台湾、韓国(北朝鮮は難しいだろうけれど)、ASEAN諸国の政治家、有識者の意見などは紹介されていただろうか。まったく不十分だったと思う。

テレビ報道の公平性の確保

政府や自民党がテレビ報道の偏向を問題視し、報道内容に介入していると言われている。実際にどこまで介入されているのかわからないけれど、客観的に見て民放のテレビ報道は偏向していると思う。少なくとも、BBCのように報道の公平性を担保しようとする配慮に欠けていることは明らかだろう。

BBCのキャスターは基本的になにかの問題に対する見解や是非は述べない。また、日本の民放の報道番組のような「コメンテーター」は登場しない。事実を伝え、また、専門家や政治家などに対するインタビューを放映する。場合によってさまざまな立場の論者を集めた討論を報道することもある。

放送時間は有限だからすべての出来事を報道することはできない。どのニュースを取り上げるか、その選択する時点で恣意性は排除できない。だから、BBCも完全な報道の公平性を確保することは不可能だ。また、インタビューも編集をしているから、そこに意図が入り込む可能性がある。しかし、仮に「偏向している」という指摘があった場合、それに対して「このように公平性を確保している」と説明はできるようにしている。

日本の民放の報道番組は、BBCに比べると素朴すぎるように思う。ある一定の政治的立場の「コメンテーター」のコメントを中心に放映すれば、「偏向している」という批判を招くし、それに対して正面切って反論するのは難しいだろう。

政府や自民党の介入に対する反対はあっても、自らの報道番組が変更していないという反論は目にしない。

テレビ報道の偏向の原因は何か

それでは、なぜ、日本の民放のテレビ報道は偏向するのだろうか。私はテレビ報道制作の内側についてはまったく知らないから、これから書くことはあくまでも推測である。

日本の民放テレビ局は、新聞社の系列となっている。新聞社は放送局と違い法律で報道の公平性を求められることはない。実際に、それぞれの新聞社で一定の政治的な立場がある。テレビ局の報道については、それぞれの系列の新聞社の影響を強く受けているように見える。例えば、系列の新聞社のOBが「コメンテーター」になることが多く、出身の新聞社の傾向に沿ったコメントをすることが多い。

そして、やはり、BBCに比べると、日本の民放の報道の現場は、予算、人材、時間が圧倒的に限られているのだと思う。最初に紹介したBBCの農家に関する報道は、かなり手間をかけて丁寧に作られていた。現状の日本の民放ではそこまでの取材をするのは厳しいのだろうと思う。できて街頭インタビューや世論調査の紹介ぐらいで、多様な人々の意見とその背景をしっかりと報道することはできない。そして、「コメンテーター」のコメントに頼るのは、結局のところ、それが安上がりだからなのではないか。

そう考えると、民放のテレビ報道が、政府や自民党に対して「偏向していない」と正面切って反論できる日は来そうにもない。

一視聴者として

私個人、一視聴者としては、テレビの報道が偏向していることはあまり気にならない。新聞社も含め、基本的にはすべてのジャーナリズムは多かれ少なかれ偏向しているものだと考えている。その前提に立って、さまざまな立場の報道を比較して自分なりの理解を得ることがリテラシーだと思う。

日本の民放の報道はそれぞれの立場から偏向しているけれど、大きく見れば日本の報道全体が一定の方向に偏っている。また、もちろん、BBCも含め諸外国の報道は、それぞれの方向に偏っている。

世界のニュースを解説を付けずに最低限の編集をしただけで放送しているNHK BS「ワールドニュース」はそれぞれの国の報道の違いがよくわかって興味深いし、リテラシーを養うために非常によい番組だと思う。放送される国の数も徐々に増えており、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、スペイン、中国、韓国、カタール、インド、ブラジル、オーストラリア、シンガポール、香港、インドネシア(見落としている国もあるかもしれない)のニュースが放送されている。

東アジア、東南アジア関係のニュースは、シンガポールの放送局はバランスの取れた見方をしていると思う(日本、中国、韓国、香港の報道は多かれ少なかれ党派的な色合いが強い)。また、ブルームバーグは、すべてのニュースを経済への影響という観点からのみ語り、また、さまざまなデータのチャートの紹介が充実していて、他のニュースで見ることができない個性がある。インドのニュースを見ると、その他の国の放送局ではまったく紹介されないニュースが報道されていて、世界は広いとしみじみ思う。