旅先で本を買う
昔から旅行をしているとその土地の本屋、古本屋、大学生協が気になってよくのぞいていた。旅先で本を買うと荷物になるのでがまんするけれど、品揃えがよい本屋に出会うと抑制できなくなることもある。京都の恵文社(恵文社一乗寺店)とか。
"Mark Twain's Letters from Hawaii":ホノルル国際空港
カウアイ島に旅行した時、トランジットをしたオアフ島のホノルル国際空港の書店で"Mark Twain's Letter from Hawaii"という本が平積みされているのをつれあいが見つけてくれて、興味を惹かれて衝動買いをした。
この本は、ハワイ王国がアメリカに併合される前の1966年にマーク・トウェインが新聞に寄稿したハワイ紀行をまとめたものである。単なる紀行にとどまらず、ハワイの文化、社会、経済、政治、時事などを同時代の目で報告した本である。
マーク・トウェインが書いているから当然おもしろい。その上、ハワイを旅行しながらこの本を読んでいると、臨場感があって引きこまれた。
これ以来、旅先でその旅行のテーマに合った本を探すようになった。
Mark Twain's Letters from Hawaii
- 作者: Mark Twain,A. Grove Day
- 出版社/メーカー: Univ of Hawaii Pr
- 発売日: 1975/05
- メディア: ペーパーバック
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William Gwee "A Baba Boyhood" プラナカン・ミュージアム・シンガポール
シンガポールへ旅行した時、プラナカン・ミュージアムのミュージアム・ショップで見つけ、直感的に読まなければならない本だと思い、すぐに買った。
プラナカンとは、主に中国から東南アジアに商人として移り住み、現地の女性と結婚した人の子孫を指す言葉だ。中国とも東南アジアの現地とも違う独特の文化、コミュニティを形成している。シンガポールにはプラナカンたちが多く住んでおり、最近ではプラナカンとしてのアイデンティティが積極的に主張されるようになっているようだ。
この本は、シンガポールが日本軍に占領された時代に少年時代を送ったプラナカン(「ババ」とはプラナカンの少年を指す言葉)の回想録である。またいずれ別のエントリーで詳しく書こうと思うが、少年の目からシンガポールの日本軍がどのように映ったのか詳細に書かれている。
あくまでも「少年の目」から政治的に中立な立場から書かれている。イギリス人やプラナカン、それ以外の華人に対しても厳しいエピソードもある。しかし、そうであったとしても、シンガポールの日本軍はとても誇りを持てるような存在ではなかったことはよく理解できる。
この本を読んでから、特に太平洋戦争のことについては、日本語で書かれていた本だけを読むのでは偏った見方しかできないと痛感した。
Rana Mitter "China's War with Japan 1937-1945 The Struggle for Survival":香港大学書店
香港に旅行した時、香港大学の書店で香港の歴史をコンパクトにまとめた本を探していて目についた。
日本語の本では日中戦争の通史はそもそも少ないし、政治的に中立なものになるとずいぶん限られてしまう。この本の著者はオックスフォード大学で中国近代史を研究するインド人で、日中戦争のキーパーソンとして蒋介石、毛沢東、汪兆銘を公平に扱っていることに表わされるように、おおむね客観的な歴史書だと思う。
南京事件については、組織的な虐殺略奪はあったが、人数は正確なデータがないという認識である。南京事件が起きた時、国民党政府はすでに撤退していて、虐殺略奪についての統計資料は残されていないという。この本では、南京事件当時、南京で学校を経営していた西洋人の記録を引用して、組織的な虐殺略奪があったこと自体は立証している。
日本軍の残虐行為が免罪される訳ではないけれど、この本を読むと、国民党政府もかなりひどいことがわかる。アメリカ政府内部で腐敗している国民党政府を支援することが正当化しうるか議論があったという記述があり、興味深かった。現代のアメリカでも、安定を優先して専制的な政府を支援すべきか、人権を優先すべきか議論になっている。同じ議論はすでに第二次世界大戦当時にすでにあったということだ。
China's War with Japan, 1937-1945: The Struggle for Survival
- 作者: Rana Mitter
- 出版社/メーカー: Penguin
- 発売日: 2014/05/08
- メディア: ペーパーバック
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Kevin Kwan "Crazy Rich Asian" Peter Stark "Astoria":パウエルズ・ブックス・ポートランド
今回のポートランド旅行で、ポートランドの有名書店パウエルズ・ブックスに行ってきた。
パウエルズ・ブックスは、チェーンの書店ではなく、ポートランドの地元の大型書店である。中心市街地ではパウエルズ以外にまともな書店は見かけなかったから「書店」に行きたいポートランドの本好きはパウエルズに集まっているのだろう、かなり繁盛していた。
最近の書店にしては、物販の比率は低く、本の販売に注力している。書店員の推薦図書のコーナーが充実している。おもしろいのは、ジャンル別に著者のABC順に整理された棚に、新刊本と古本が混在していることである。たしかに、絶版本については古本が並んでいると便利かもしれない。
Powell’s Books | The World’s Largest Independent Bookstore
ここでは、書店員が推薦している本を二冊購入した。
一冊目はKevin Kwan "Crazy Rich Asian"。ウルトラ・リッチな華人たちの家族のラブ・コメディ。シンガポール、香港、上海、クアラルンプール、ニューヨーク、ロンドン、パリと舞台はめまぐるしく変わる。現代のウルトラ・リッチな華人コミュニティの実態を垣間見ることができる(まあ、小説だから誇張はあると思うけれど)。今、1/4ぐらい読み進めたところ。大陸の中国人に比べ、華人(中国の外に住む中華系の人たち)の方が伝統的だ、とうセリフがあり、なるほどそうかも、と納得した。
二冊目はPeter Stark "Astoria"。ポートランドからコロンビア川を下った河口部にアストリアという港町がある。Jacob Astorという毛皮商人がネイティブ・アメリカンから毛皮を購入するための交易所を設置したことが町の起源になっている。この本は、Astorの野望と挫折の歴史を扱っている。旅行ではポートランドからアストリアまでドライブをして、太平洋岸の荒涼とした風景を眺めてきた。これから読むのが楽しみだ。