予想外

村上春樹もふくめ現代の日本の小説を読もうと思い、すこしずつ読んでいる。なかなかおもしろい小説が多いと思う。
最近では、村上春樹アフターダーク」(講談社)(ISBN:4062125366)、保坂和志「プレーンソング」(中公文庫)(ISBN:4122036445)、車谷長吉赤目四十八滝心中未遂」(文春文庫)(ISBN:4167654016)を読んだ。この三作のうち、いちばんおもしろかったのは、予想外にも「赤目四十八滝心中未遂」だった。ついで「プレーンソング」がよかった。「アフターダーク」はいちばん印象が薄かった。
赤目四十八滝心中未遂」は、尼崎の場末に身を落とした男の私小説というあまりの時代錯誤の設定のため、直木賞を受賞したときにハードカバーで買ったまま4年ほど積読状態に放置してあった。たまたまほかに読みたい本が手元になかったため、この本を読み出したところ、あっというまにその小説世界に引き込まれていた。とにかく文章もストーリーも上手い。題材がどうであろうとも、おもしろい小説はおもしろい。食わず嫌いをしていた自分の浅はかな先入観を反省した。小説にかぎらないけれども、たまには食わず嫌いなものに手をださないと自分の世界が広がっていかない。
「プレーンソング」は、「赤目四十八滝心中未遂」の味の濃さと対照的な薄味の小説だった。劇的なできごとやストーリーの展開がまったくなく、日常生活を微分するような描写だけでこれだけ読ませるということに驚いた。特に、作者と野良猫との関わりは、自分とかさなるところが多く共感できた。
この二つの小説については、もう少し書きたいことがあるけれど、まだまとまりがつかない。車谷長吉保坂和志のほかの小説を読んでから、書いてみようと思う。
日本の現代作家の小説を読むときには、福田和也「作家の値うち」(飛鳥新社)(ISBN:4870313952)を参考にしている。この本については、毀誉褒貶があるようだけれども、おおむねいい線ついていると思う。80点以上がついている小説は、食わず嫌いで手を出さなかった作家の小説も含めて、いままでのところはずれはない。
例えば、村上春樹ねじまき鳥クロニクル」(新潮文庫)(ISBN:4101001413)とならんで最高点の96点がつけられている石原慎太郎「わが人生の時の時」(新潮文庫)(ISBN:4101119104)。ほんとうにそんな傑作なのだろうかと大いに疑問をもって読み始めたところ、これが思いのほかいい小説だった。96点をつけるほどの小説とは思わないけれど、読んで損することはない。ちなみに「プレーンソング」は82点、「赤目四十八滝心中未遂」は87点である。
福田和也は「作家の値打ちの使い方」(飛鳥新社)(ISBN:4870314428)で、車谷長吉について次のように語っている。

 あと嫌いなほうで云うと、車谷長吉ですよね。ほんとに大嫌いなんですが、まじめに検討すると彼の作品は評価せざるをえないので、かなり高い点数をつけるということをやっている。

これは、実感としてよくわかる。「赤目四十八滝心中未遂」を読んでいると、なんといやみな作者だろうかと思い、けっして仲良くできそうにもないと思うが、小説はおもしろいのである。