田口夫妻の場合

カージナルスレッドソックスワールドシリーズ期間中、田口壮「何苦楚日記」(主婦と生活社)(ISBN4391129078)を読み返していた。これは、田口選手がウェブサイトで書いていた渡米中の日記の2002年と2003年のシーズンの分を本にしたものである。2004年のシーズンの日記は、http://www.taguchiso.com/contents/f-mail.htmで読むことができる。
「何苦楚日記」の中には、印象的な文章がいろいろあるけれど、これから引用するあとがきにある一節が特に記憶に残っている。

 ルーキーの頃から僕を知っているヨメに、オリックス時代、
「いったい僕は外からどう見えてるの」
 と聞いたことがあります。
「真面目、羽目をはずさない優等生、いい子、さわやか系」
 期待通りの表現。
「面白みがない、融通がきかない、神経質」
 雲行きが怪しい。
「気にしい、気分転換が下手」
 もしかしてこの人、俺のこと嫌い?
「スランプ長すぎ」
 そこまで言うか!
「俺、そんなに情けないんかいなあ……?」
 すっかり気落ちして、聞くんじゃなかったと後悔していると、彼女は悪びれもせず、ニッと笑いました。
「いや、それが、ニセモノの田口壮
 ヨメはある意味、僕の中にいる、本当の僕を見抜いていました。優等生のように見えて、実は見えるだけ。人前でバカをやりそうにないけど、本当はお笑い大好きのお調子者。いつも笑顔の裏側で、そっと一人ぶち切れている。きっちりしているようで、とてもずぼら。細やかそうだけれど、実際は自分の興味のある部分以外どうでもいい、典型的なB型男。
 野球でも、私生活でも、どこか繊細な部分があって、それも本当の僕の一面、と彼女。でも、「野生生物なみに強くて泥臭い部分が、まるで表に出てこないのは、もったいないなあ」

この部分だけだと、単なる夫婦ののろけ話に読めてしまうけれど、日記のなかでこの夫婦が二人三脚で苦労を乗り越えている姿を知った後に読むと、ああ、この二人はいいカップルなのだなと思う。
こういう自分や自分の身内の「いい話」を書くのは、なかなか難しい。書くこと自体気恥ずかしいし、読み手が気恥ずかしくなったり、反発を覚えることが多い。小説家であればフィクションに仮託することもできるけれど、「日記」ではそうもいかない。
田口選手は、恥ずかしさなく、この一節をすなおに納得させるのだから、なかなかのものだと思う。