近代文学

芥川龍之介「大川の水/追憶/本所両国」(講談社学芸文庫)(ISBN:406196304X)のなかの「雑筆」を読んでいたら、こんな一節があった。

 小供の時分の事を書きたる小説はいろいろあり。されど小供が感じた通りに書いたものは少なし。大抵は大人が小供の時を回顧して書いたと云う調子なり。その点ではJames Joyceが新機軸をだしたと云うべし。

 ジョイスのA Portrait of the Artist as a Young Manは、如何にも小供が感じた通りに書いたと云う風なり。或は少し感じた通りに書き候と云う気味があるかも知れず。されど珍品は珍品なり。こんな文章を書く人は外に一人もあるまい。読んで好い事をしたりと思う。

ジョイスと芥川は同時代人だったのだ。