通り過ぎてしまった人々

先月の末、林由美香*1が亡くなった。そして、今月の半ばには、橋本真也が亡くなった。
新聞、週刊誌、そして、インターネットの上でも、彼らの死について、彼らの思い出についてさまざまな文章が書かれていた。私にとっても二人とも思い出深い人たちだから、このウェブログになにか書こうと思っていたけれど、実際に書き出すことができず、ずるずると時間が経ってしまった。
なぜ、書き出すことができなかったのか。
二人の死が突然すぎて、自分の気持ちがうまく整理できず、文章をまとめられなかったこともある。しかし、それだけではない。私にとって、二人は通り過ぎてしまった人々だったからだ。
林由美香は、最近ではピンク映画で活躍していることは知っていたけれど、彼女の出演しているピンク映画を見に行くことはなかった。橋本真也は、新日本プロレスを辞めてからは、ゼロワンの興行を一回見に行っただけで、ゼロワンの末路を見届けることはしなかった。橋本真也は、何らかの形でプロレスを続けるだろうと思っていたけれど、あの身体ではビックカムバックは難しいだろうと思っていた。そもそも、最近ではAVもプロレスも、あまり見ることがなかった。
もちろん、二人の死のニュースを聞いて、彼らに関するさまざまな思い出がよみがえってきた。しかし、彼らの死のニュースを聞く前、最近彼らのことを考えたことがあっただろうか。なかった。つまり、彼らは私にとって通り過ぎてしまった人々だったのだ。そう考えると、彼らの死をきっかけに、彼らの思い出を書き並べて、惜しい人を亡くした、などと心にもないことを書く気持ちになれなかった。最近はあまり思い起こすことはなかったにせよ、彼らの思いでは自分にとって貴重なものだ。しかし、ピークを越えてしまった現在の彼らには、あのころのように感動することはなくなっていた。だから、彼らは自分にとってはもはや「惜しい人」ではなくなっていた。
橋本真也の死に際しての蝶野正洋のコメントは、真情あふれるものだったと思う。「本当に残念だね。ただ、本人がエンジョイできた人生であればよかったと思う」。私も、同じような気持ちである。
林由美香の死も橋本真也の死も、残念には思う。しかし、太く短く人生のピークを駆け抜けてしまった彼らを「惜しい人を亡くした」とはいえない、思えない。「本人がエンジョイできた人生だったらよかった」と思うばかりである。

*1:かつて書いた彼女の思い出話:http://www.lares.dti.ne.jp/~ttakagi/diary/diary/9705.htm#19970516