登川誠仁

今週は、音楽を聞きながらその音楽について書く、という企画をたてたものの、実際に書き始めてみると、無謀だったかなと、少々後悔している。
音楽を聞いて感じることを言語化することは難しいし、本を紹介するときのように引用ができないのもつらい。いつも、なるべく具体的で明晰に書きたいと思っているけれど、音楽のことを書こうとすると、自分にしかわからない抽象的な表現になってしまう。特に、紹介している音楽を聞いたことがない人にはなおさらわからないだろう。
と、いうことはわかっているのだけれども、また、書きにくい音楽を選んでしまった。好きなものは好きなのだからしかたない。
登川誠仁は、沖縄民謡、いわゆる島唄の世界の重鎮。しかし、飄々としていて、まったく重鎮風ではない。以前「ナビィの恋」という沖縄の離島を舞台とした映画に、奥さんに家を出ていかれてしまうおじいさんの役で出演して、実にいい味を出していた。
The Boomの「島唄」は、エキゾチックで、ロマンチックに朗々歌い上げられる。元ちとせは幻想的な歌を歌っている。Beginも全国放送のテレビでは、「沖縄風」のヒット曲を歌う。そういったタイプの島唄がよく売れるのだから、商業主義で島唄がねじまげられていると批判してもはじまらない。ただ、内地では沖縄の音楽にはそのようなイメージを与えられて、消費されているということだろう。
しかし、登川誠仁やBeginのCDを聞くと、そんな内地での島唄のイメージが壊され、実に多様な歌があることがわかる。
例えば、登川誠仁の「ハウリング・ウルフ」というCDは、まさに沖縄歌謡のチャンプルーで、重厚な曲、哀愁のある曲もあるけれど、景気のいい曲、言葉遊び、パロディ、悪ふざけも満載である。
このCDは、彼のCDのなかでは、内地の人の解釈がはいっていない方で、彼の歌がなまに近い形で楽しむことができる。それだけ、内地の島唄への固定観念を裏切ってくれる。
最初の歌は「勝ってかまぼこ食べたいな」という軍歌の替え歌である。沖縄戦の重い背景を持った曲だけれども、演奏はあくまでも軽くて明るく、歌詞も食べ物づくしのパロディで、軍歌をすっかり茶化している。
「ペスト・パーキン・ママ」という歌には毎回爆笑させられる。耳から覚えたアメリカの歌を、さっぱり意味のわからないいんちき英語で歌っている。ギターの代わりに三線で演奏しているから、いい感じでチープになっている。いかさまくささをおもいき楽しむように、嬉々として歌っていて、こちらもうれしくなってくる。そこには、The Boomの「島唄」にある辛気臭さはかけらもない。