お気に入り

30代に入って日記(http://www.lares.dti.ne.jp/~ttakagi/diary/index.html)を公開するようになってから、急に小説が読めるようになった。それ以来10年間、明治、大正、昭和初期の小説を濫読してきた。代表的な作家をひととおり読んで、自分の好みがわかるようになった。
小説では、ありきたりだけれど、漱石、鴎外の作品を読み返すことが多い。彼らは、方法論に自覚的で、実験的な作品を書いているから、読むたびに発見がある。
漱石の小説は、それぞれに魅力があるからどれが好みとは言いにくいけれど、「門」(岩波文庫 ISBN:4003101081)にはいちばん思い入れがある。サラリーマンをしている夫が妻と二人でひっそりと暮らしているという設定が身近に感じられるからかも知れない。読み返した回数が多いのは、「それから」(岩波文庫 ISBN:4003101073)だと思う。小説ではないけれど、随筆の「硝子戸の中」(岩波文庫 ISBN:400310112X)や、講演の「道楽と職業」(「漱石文芸論集」(岩波文庫 ISBN:4003101006)所収)も愛読している。
鴎外では、なんといっても「渋江抽斎」(岩波文庫 ISBN:4003100581)がいい。一連の歴史小説も気に入っている。「阿部一族」(「阿部一族舞姫」(新潮文庫 ISBN:4101020043)所収)を読んでしまうと、普通の歴史小説がそらぞらしくなって読めなくなってしまう。最近は気弱になっているためか、「ぢいさんばあさん」や「寒山拾得」(いずれも「阿部一族舞姫」(新潮文庫 ISBN:4101020043)所収)を読んで癒されることもある。
小説のおもしろさ、という意味では、谷崎潤一郎岡本綺堂が気に入っている。谷崎潤一郎は、とにかく、観察力がすぐれていると思う。このことには以前にも書いたことがある(id:yagian:20050206#p2)から繰り返さない。捕物帖は岡本綺堂が創始し、かつ、極めていると思う。明治の歌舞伎について書いた随筆「明治劇談 ランプの下(もと)にて」(岩波文庫 ISBN:4003102622)もいい。
文章を味わう楽しさでは、川端康成井伏鱒二川端康成の文章についても、以前、やや詳しく書いたことがある(id:yagian:20051001#p2, id:yagian:20051008#p1)ので、ここでは繰り返さない。井伏鱒二は、小説や随筆だけではなく、「厄除け詩集」(講談社文芸文庫 ISBN:4061962671)もいい。
小説以外では、高浜虚子正宗白鳥広津和郎の評論が気に入っている。いずれも、身も蓋もないほど率直で、読んでいて気持ちがいい。正宗白鳥広津和郎は、そのおもしろさに比べて、新刊で手に入る書籍が限られているのが残念である。
最近では、現代の小説、特に、女性の作家の作品も読み始めている。江國香織川上弘美小川洋子多和田葉子と読み進み、それぞれ個性的な気持ちのよい小説を書いていて、読んでいて楽しかった。彼女たちの小説は、ぜんぶ読み通すのもいいかもと思っている。いずれ、この日記でも彼女たちの小説の感想を書こうと思う。しかし、角田光代空中庭園」(文春文庫 ISBN:4167672030)はだめだった。うまく表現することができないけれど、志が低く感じられて、後味が悪かった。抽象的な言葉でけなすのは卑怯な気もするので、いずれ、角田光代の小説のどこが気に入らなかったのか、じっくり考えて書いてみなければと思う。