世界史のお勉強

最近、新書本をあれこれ読んでいるけれど、岩波ジュニア新書にあなどれない良書が多いことに気がついた。内容のレベルも高く、どんな読者を想定しているのか不思議に思うような本も多い。
例えば、木村龍治「自然をつかむ7話」(岩波ジュニア新書 ISBN:4005004385)。この本には、「ジュニア向けに寺田寅彦のような随筆を書いてくれませんか」という依頼にこたえ「わたし自身の身辺雑事から始まって、話をふくらませるスタイルで書きました。現代の自然観を、寺田寅彦の随筆のスタイルで語るとどうのような具合になるのか、チャレンジしたというわけです。」と書かれているように、寺田寅彦を意識した科学エッセイである。そのチャレンジは、充分成功していると思う。大げさに言えば、寺田寅彦中谷宇吉郎の衣鉢を継いでいると思う。ジュニア向けにしておくにはもったいない。
川北稔「砂糖の世界史」(岩波ジュニア新書 ISBN:4005002765)は、用語には配慮しているように思うけれども、内容は本格的だった。あとがきに、「この本は、「世界システム」論といわれる歴史の見方と、歴史人類学の方法を使って書いてみました」とあるように、砂糖の生産、流通・貿易、消費を切り口にして、世界システムの成立過程について書かれた本である。
私自身、ヨーロッパの歴史に疎いため、この本を読んでいると、いろいろな疑問が湧いてきた。気になったので、家にあった「現代の世界史 世界史A」(山川出版社)を読み返してみた。しかし、結果として、いっそう疑問が深まった。教科書は、史実と確立された解釈については書かれているけれども、それ以上踏み込んだ記述はない。だから、解釈が分かれるところについては、避けている。それが、疑問が解消されない理由になっている。
世界システムの成立において、いちばん大きな疑問は、16世紀の頃にはかならずしも西ヨーロッパ諸国が覇権を得ていたわけではなかったのが、なぜ、17世紀の後半以降になるとヨーロッパの優位が確立するのか、ということである。もうひとつの疑問は、第一次世界大戦以降、アメリカ合衆国の覇権が確立していくわけであるけれど、ヨーロッパの外にあり、戦争の被害を受けず、それからの経済的な利益を得ることができたはずの南アメリカ諸国、ブラジルやアルゼンチンといった国々が、アメリカ合衆国と大きな差がついてしまった理由である。こういった事柄については、あまり答えてくれない。
例えば、インドの植民地化の契機としては、「ムガル帝国は17世紀の後半から急速におとろえ、18世紀なかばにマラータ諸侯などの内紛に乗じて、英・仏は東インド会社を先頭に、海港の拠点から内陸への侵略を解した。」と書かれている。しかし、ムガル帝国がなぜ衰え、相対的に英仏が優位に立ったのかわからない。また、植民地化の進行はインドに限らないから、アジアの各地域の政権とヨーロッパ諸国との相対的な力関係も、ムガル帝国と英仏と平行して変化したしたのだろう。そうだとすると、ムガル帝国の衰退と、アジアのその他の地域の衰退と、共通した原因、背景があると考えられるが、そのようなことまでの記述はない。
また、第一次世界大戦アメリカ合衆国に関して、「ヨーロッパ列国が戦争に忙殺されているあいだに、アメリカ・日本が経済的・政治的に台頭し、東アジアが新しい重要紛争地域となりはじめた。」「アメリカは大戦によって債務国から債権国に転じ、イギリスをしのぐ大工業国となった。」といった記述はある。それぞれの内容は納得できるけれど、なぜ、アメリカ合衆国が特に特別な地位を占めることができたのか、その説明としては不十分のように思える。
世界史について、自分なりにお勉強したくなってきた。