正論

私の読んでいる新聞や雑誌が悪いためか、マスメディアでまともな記事や論説を目にすることが少ないように思う。しかし、産業再生機構の専務だった冨山和彦が今日の日本経済新聞の経済教室に書いた論説は、まさに正論だと思う。
特定の利益を代表するような論説は問題外としても、本人は善意、もしくは、理性に基づいて書いたつもりの論説であっても、情が勝ちすぎて論理的でなかったり、論理的ではあっても事実認識が不十分であったりすることが多い。以前、冨山和彦が書いた「会社は頭から腐る」を読んだとき、情と理と事実に立脚して書かれた迫力ある文章に感心し、説得されたことがある。この経済教室の論説では、文章が短いだけ、結論をよりストレートに書いており、迫力が増しているような印象がある。特に目についた部分を引用したい。

……今日、経済財政政策での国民的な意思統合を妨げている要因は……世代間対立であり、既得権益の内と外の間の利害対立だ。
……多数派たる中高年と少数派たる若者との間で深刻な利害対立を生み出す。また、雇用や生活に関する諸制度は終身年功型雇用を前提に設計されている。企業内でも権力を握っているのは年功があり多数派の中高年世代だ。彼らの雇用維持を優先するからこそ、不況期には新卒採用を抑えて若年層を排除する。その結果がロストジェネレーションであり、現場力の疲弊だ。
……
……所得再配分に依存している地方ほど既得権益構造が温存され、この中では、与野党とも本質的な論点に真正面から切り込むことはきわめて困難。……
……
……確かに地方を中心に気の毒な高齢者も多い。しかし今の若者が高齢者になる五十年後、この国は「稼げない」どころか「食えない」国になり、彼らはもっと気の毒な高齢者となる可能性が高い。そうならないために、自らの不利益となるような変革を実現できるか。……豊かで平和な時代を生きてきた私たちの世代の品格が問われている。

団塊の世代とバブル世代(ちなみに私は後者のまっただ中である)は、まさに既得権益を握っており、いわゆるロストジェネレーションと利害対立している。格差の問題が話題にされながら、多数派である団塊の世代やバブル世代を正面から批判する論説はあまりお目にかかれない。権力を持っている多数派を敵に回しては評判がよかろうはずがないからだ。しかし、ここまで厳しく自分自身の世代に向けて批判を向けている文章を読むと爽快である。